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2013年11月 8日 (金)

坂元弥太郎、いざトライアウトへ。扉よ、ひらけ。

  「早起きは三文の得」という言葉がある。プロ野球担当記者は大概夜型人間であるが、たまに朝早く現場に向かうと、いい情景を目撃できる。

   あれは10月30日のことだった。西武ドームでの1軍秋季練習は午前11時から始まる。それでも隣接する西武第二球場には、午前9時から星孝典、大崎雄太朗が汗を流していた。戦力外通告を受け、トライアウトを受験する坂元弥太郎の練習を手伝おうと、集まったのだ。

 弥太郎はずっと西武第二でトレーニングを積んでいるが、一人でできる練習には限りがある。トライアウトは投手対打者の勝負。ならばやはり、実戦に即した準備をしたい。

 星は弥太郎とのキャッチボールを終えると、プロテクターを身につけた。マシン打撃を終え、心身を研いだ大崎が室内練習場の打席に向かう。弥太郎がマウンドに立った。18・44メートルの距離に、3人の男がそびえる。シート打撃が始まった。

 「真っすぐいきます!」「カーブいきます!」「スライダーいきます!」

 自然と投球には熱がこもる。弥太郎はここからトライアウト当日まで、状態をピークにもっていかねばならない。

 「首を振って、そこはないよ! もっと広く!!」

 捕球する星も真剣にアドバイスをおくる。

 弥太郎のカットボールに、大崎のバットが折れた。「あ~あ、新品なのになあ」

 フルカウントに追い込んだ。弥太郎の声が弾む。

 「三振、取りにいくよ!」

 中指と人さし指の間にボールを挟み、思い切り腕を振る。フォークボールに大崎のバットは空を切った。

 「何だよ、自信ついちゃうじゃねえか!」

 大崎も間髪入れずに、叫んだ。

 「本気でいってますよ!」

 3人の男達は汗だくになって、室内練習場から出てきた。弥太郎のスマホのスピーカーからはWANDSの「時の扉」が流れていた。93年2月にリリースされた作品だ。私は思わず言った。

 「弥太郎くん、古いね!」

 「アハハハハ!でも、なんか、いいんですよ~」

 時の扉 たたいて 明日を一人歩こう
 失うこと恐れず 忘れえぬ痛み 笑いとばそう

 普段なら聞き飛ばしてしまうその歌詞が、なんだか心に沁みた。

 「じゃあ俺たち、練習に行ってくるから」

 星と大崎が西武ドームへと向かった。

 「ありがとうね!」

 ひとりきりになった弥太郎に、聞いた。

 「自分はヤクルト、日本ハム、横浜と渡り歩いて、西武に来た。いろんな球団に行けて、いろんな人に逢えた。すごく幸せだったと思うんです。やっぱりチームって、外から見ているのと、中から見るのと、全然違う。こうやって、手伝ってくれる仲間がいる。だからね、トライアウト、ベストを尽くしたいんです」

 そういえば、弥太郎と星は31歳の同学年だった。星は言った。

 「最後まで、もがいてもらいたいんだよね」

 秋風が吹く。

 あの日から「時の扉」が耳にこびりついて、離れない。

 時の扉 たたいて ここから今飛びだそう
 風に吹かれ 気ままに 見知らぬ自由を抱きしめよう

 第1回合同トライアウトは11月10日、静岡・草薙で行われる。

 扉よ、ひらけ。

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コメント

頑張って欲しい!弥太郎選手!
結構良いピッチングしてたもん、絶対大丈夫!
応援してくれる仲間がいて心強いですね!

良い話です。。。泣けました。
良い結果が出ることを祈ってます。

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