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2013年12月26日 (木)

秋山翔吾との、改札口での出来事。

 「改札口で君のこと いつも待ったものでした」

 言わずと知れた野口五郎の名曲「私鉄沿線」の歌い出しである。

 かつて、西武球場前駅の改札口はドラマに溢れていた。日本テレビ「高校生クイズ選手権」の関東予選が西武球場で行われていた頃の話だ。

 高校生クイズには参加者が3人そろわないと、出場できない。携帯電話が普及していなかった時代には「西武球場前駅の改札で、何らかの理由で3人そろわず、失格になり悔し涙に暮れる高校生の姿」が夏の終わりの風物詩として、ブラウン管に流れていた。

 茨城の片田舎で呑気な小学生ライフを送っていた僕は、それを見るたび「近所で待ち合わせてから、一緒に来ればいいのに」と思ったものだが、それぞれにいろいろ事情があったのだろう。

 さて本題。秋山翔吾の話である。

 秋山はこの12月、西武第二球場で自主トレを行うにあたり、西武鉄道沿線にある自宅から電車通勤をすることにした。

 「電車の方が近いんで。大きな荷物がなければ、電車で行くつもりです」

 今季は外野のゴールデン・グラブ賞を獲得し、侍ジャパンの台湾遠征でも躍動。来季の年俸は推定で6500万円にアップした。そんな男が、西所沢駅で橋を渡って乗り換えたり、接続の悪い不運を嘆いたりするのだ。これは面白いなと思って「秋山、『電車男』になる!」という短い記事にさせてもらった。

 すると数日後、本人からチクッと指摘された。

 「あまりにネタがないからって、何でも記事にしないで下さい!」

 いやー、庶民派を貫く翔吾くんの人となりを知ってもらいたくてね~と言い訳したけど、その日がネタ不足だったのは否めなかった。ちょっとだけ後悔した。

 直後だった。練習を終えた秋山が西武第二球場を発ち、西武球場前駅まで歩く。僕ら報道陣は話を聞こうと、追いかけていった。「ぶら下がり」で話を聞いていたのだが、改札まで到着してしまった。電車の発車時間まで、もうすぐだ。時間切れかと思いきや、秋山はこう言うのだった。

 「ああ、いいですよ。次の電車に乗りますから」

 僕たちのために、電車を一本遅らせてくれたのだ。隣接する「狭山スキー場」へと向かう、スノーボードを持った若い男女が「秋山だ!」と驚く中、インタビューは続いた。誠実な人柄に、助けられた。

 今年限りでライオンズ担当を離れることになった。東久留米駅から富士山を眺め、飯能行きの各駅停車に乗車し、西所沢駅で乗り換える。ナイター後には23時30分発の終電に乗り込むため、プレスルームから漆黒の西武ドーム通路を猛ダッシュする。そんな毎日に別れを告げる。西武球場前駅の改札を行き来することも、あまりなくなることだろう。

 それでも最後に、西武球場前駅改札での思い出ができたことが、少しだけうれしい。やはりこの場には、ドラマがある。

 来季以降も秋山翔吾が打つたび、電車を一本遅らせてくれたあの姿を、思い出すことにしよう。近い将来、首位打者に輝く男だと確信している。

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コメント

いつも、ライオンズの隠れた逸話をありがとうございました。私的な理由があり、一方的に加藤さんに親しみを持っておりました。
今後一層のご活躍をお祈りしております。時節柄どうぞご自愛くださいませ。

加藤さんの記事は温かみがあって大好きでした。もう加藤さんのライオンズ記事が読めないと思うと寂しいです。
今後のご活躍をお祈りしております。

ライオンズナインの色んな裏話を知る事が出来て、とても嬉しかったです。ありがとう加藤さん。
今後の活躍をお祈りします。

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