谷川岳への出発前夜、俺は悩んでいた。
明日の初対面の集合に悩んでいるわけではなかった。それはなるようにしかならないし・・・
悩んでいたのは靴のことだった(笑)
結局、スリーシーズンのトレッキングブーツにした。アイゼンも装置できるし・・・
群馬の高崎に前泊することは、俺が提案した。
理由は、俺とK君は当日始発に乗っても、土合88時半過ぎの集合時間に間に合わないからだ。西黒尾根をやるならギリギリの集合時間だ。これ以上集合時間を遅らせるわけにはいかない!あせりは、事故をまねくもとだ。
それなら登山前夜に、三人でミーティングをしようとひらめいた。
さすがにお互い全く知らないより、知ってる方が何かとやりやすい。
5月20日17時過ぎ、俺は、高崎市の某ビジネスホテルに一足先にチェックインした。そして大浴場のサウナで、ひと汗流した。
19時過ぎ、ビールを飲んで気持ち良くなっていると、塾長から連絡があった
塾長『今ロビーにおるけど、何分でこれる?』
阿蘇『さ、3分で行きます』
酔いが一気にさめた!
フロントに急ぐと・・・ヤクザより怖い塾長が仁王立ちしていた。柔術道場のホームページで塾長の写真が公開されていたので、すぐわかった。実物もやはりいかつかった(笑)
阿蘇『た、大変お待たせしました。あ、阿蘇でございます。遠路はるばるお疲れ様です』
塾長『おう、阿蘇さんかぁ、宜しくな!ほな行こか?』
隣の焼き鳥屋で塾長講話が始まった。男としての生き方を、ニューヨークやブラジルでのエピソードを交えながら、語ってくれた・・・まるで哀川翔だった。ほとばしるオーラがビンビン伝わる。塾長の耳は、柔術家特有の餃子のようになっていた。『泣く子もだまる』ってきっとこんな感じなんだろう・・・体調が悪いと言ってたのに、この存在感!!体調が良かったら間違いなくラオウだ。
阿蘇『塾長は、なぜ今回申し込んだのですか?』
塾長『簡単に言うと、縁やな!竹内さん繋がりの友人二人おるから!!』(一人は番外編で登場したM君)
俺はこのひとに勝てるのだろうか?!・・・ドロップアウトのえらいひとに(笑)
20時半過ぎ、K君から連絡がきた。ホテルまで迎えに行く。全くK君の顔は想像できなかった。ロビーで待ってると熱い視線を感じた。振り返ると微笑んでいる青年がいた。
阿蘇『もしかしてK君?』
K君『そうです!阿蘇さんはすぐにわかりましたよ(笑)』
阿蘇『やっぱりわかる?(笑)Iさん(塾長)がお待ちかねなんで、そそうがないように(笑)では、行きますか?』
外見は普通の真面目そうな大学生だ。『能ある鷹は爪を隠す』の典型だ、油断できない!!
俺は塾長にK君を紹介し、塾長の前に座らせた。
塾長『松本だからK君はS大か?』
K君『はい、そうです』
阿蘇『なんかサークルに入ってるの?』
K君『山系のサークルに入ってます』
塾長『山岳会か?』
K君『・・・そうです・・・』
阿蘇『あの名門S大山岳会とは・・・ほぇ~』
塾長『ほな竹内さんのパートナーはK君で決まりやん!!!』
S大山岳会は、大学登山界の『虎の穴』だ。山のプロとして飯を食べたいなら、そこの門を叩くのが手っ取り早い!!
「何か隠しているのかもしれない!!」の俺の直感は正しかった!山岳会の活動や合宿で忙しいと初めから言ってくれたら良かったのに・・・まぁ、ライバル達に手の内をさらしたくなかったのだろう。
塾長『なんでS大山岳会に入ったん?』
K君『山をやるためにS大に入りました』
阿蘇『なんで今回申し込んだの?』
K君『山を志してたら当たり前じゃないですか~!』
阿蘇『一本取られた・・・ 』
逆襲のチャンスがきた!K君はさんまの塩焼を注文して、塾長にすすめず一人でパクパク・・・俺のお説教が始まったのは、言うまでもない(笑)
阿蘇『かたちだけでもいいから、目上のひとにすすめるのが礼儀だよ!これからいろいろとお世話になる山岳会の御大の前で同じことすると、海外遠征に連れて行ってもらえないよ(笑)』
塾長にも突っ込まれる。
塾長『俺は全く構わんけど、社会人としての礼儀やな!まぁ学生だからまだ許されると思うけど、こういうことは覚えておいた方がええな』
意気消沈・・・と思いきや
K君『今回は同じ立場だと思ってたんで、すいません』・・・
ノーダメージ(笑)
恐れの知らない若者が歴史を変えると確信させられた。
パートナー募集に応募しなければ、きっと出会うことがなかった、39歳、35歳18歳の3人が、ここに集まったことは、まさしく竹内マジック(笑)
塾長の山の師匠は、S大山岳会出身で、その人が先日、K君達新入部員のクライミング指導をしていたのが発覚した(笑)
もはや、俺VS 塾長&K君との闘いだ(笑)
俺のビールは、進んだ。
塾長『阿蘇さん、なんで今回パートナーに申し込んだん?』
阿蘇『だって金メダル欲しいじゃないですか。一番になりたくないですか?』
K君『阿蘇さん酔ってますね~』
塾長『金メダルって、まさか?!・・・』
つづく




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