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2016年11月 7日 (月)

松本紀保の演技「非現実的世界を現実に 濃密な空間づくりにかける」

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 東京・三軒茶屋のシアタートラムで、6日に千秋楽を迎えた劇団チョコレートケーキ公演「治天ノ君」を見た。この劇団は、歴史的事件や史実を、新しく大胆な解釈で舞台化してきたことで知られている。2013年初演時、読売演劇大賞選考委員特別賞を受賞するなど評価は高く、今回見た日も立ち見が出ていた。

 「治天ノ君」とは院政で実権を握り、政治に当たった上皇を意味する。物語は大正天皇の妻、貞明皇后節子の視点を通して、大正天皇の生涯が描かれていく。皇后を、初演に続いて松本紀保が好演していた。この5月には喫茶店を舞台にした宮崎弁の芝居に格闘していた人だが、同じ人物と思えないほどの変ぼうぶり。どんな役も「演じてます!」というのをまったく感じさせない、とても不思議な女優さんだ。

 舞台は歴史の検証ではなく、フィクションの形を取っている。回想シーンを盛り込みながら明治、大正、昭和と3人の天皇がそろう場面もあったが、新鮮な驚きがあった。自分がいかに別々に切り離して、時代をとらえてきたかに気づかされる。大正天皇は体が弱かったので15年で大正時代は幕を閉じる。歴史の教科書でもあまりじっくり教わった記憶がない。しかし皇后の、強さを秘めた優しさが、どれほど天皇の生きる力になっていただろう。そんな事も思いながら見た。

 10月に天皇陛下が生前退位の考えを表明され、10月27日には三笠宮さまが100歳で亡くなられた。私たちもいま、皇室のことを考える機会が増えている。舞台の最後に流れる「君が代」の旋律。これほど重く、胸に響いて聞こえたことはなかった。

 終演後、紀保さんの楽屋に寄った。この舞台は先のロシア公演でも好評だったという。「字幕だったのですが、熱心に見ていただいて。初日からスタンディングオベーションで、惜しみない拍手をいただきました。今後の自分にとっても、すごく貴重な経験になったと思います」。さっきまで気品あふれる皇后さまだったのに、こちらが戸惑うほど、素顔のニッコニコ顔に戻っていたのがおかしかった。

 劇場からの帰り道。あれは20年ほど前だろうか。「近代能楽集 葵上・班女」での彼女を思い出していた。いまと、あのときとが、どこか線でつながっている気がした。非現実的な世界を、見る者に現実にさせる力。小劇場という空間を、どこまで濃密にできるか、にかけている人のように思えたのだった。

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