クローザー・涌井秀章。レースの最後に向かって

 涌井の登場曲は今季、リリーフに転向してから、ミスターチルドレンの「TOMORROW NEVER KNOWS」になった。何故、この曲なのか。何度か訊いてみたが、涌井は教えてくれない。

 今夜、西武ドームでのオリックス戦。1点リードで迎えた9回表。涌井秀章の名前がコールされると、レフトスタンドを中心としたスタジアム全体に異様な熱気がほとばしった。

 前夜の同戦。2試合連続で救援を失敗してしまった18番だったが、ファンの想い、信頼は変わらなかった。

 いや、むしろ。涌井の復活を願い、祈るような声だったといっていい。

 1死から小島に右前安打を浴びるが、冷静に後続を断った。14球で3アウトを奪い、ライオンズの連敗は4で止まった。ナインが22セーブ目を挙げた18番のもとに集い、緊張の中での力投をねぎらう。ベンチもまた、魂を燃やした守護神を、笑顔で出迎えた。

 試合後の渡辺監督は、涌井についてこう語った。

 「内容うんぬんより、結果が求められるポジション。勝ちゲームで終えるのがクローザーの仕事。チームにしっかり勝ちをつけてくれた」

 「昨日、35球も投げていたから、考えたんだけど…。できれば先に(8回を)十亀で、9回がランディ(ウィリアムス)でもいいかなと思った。でも、やっぱ勝ちゲームだったし、正当の順番でいこうと。ワクがセーブをつけるのも、早い方がいい」

 前夜、試合後のミーティング。リリーフを失敗した涌井に、指揮官はこう語りかけたという。

 「自分を信じて投げろ」

 クローザーという新たなポジションにアジャストし、夏場の快進撃の立役者となった背番号18の表情から、わずかに自信が失われつつあるのを、指揮官は見逃さなかった。

 昨夜の試合後、渡辺監督の言葉はこうだった。

 「今まで築き上げてきたものを、ここからのゲームの中で、水の泡にするのもしないも、涌井次第だ。『西武のクローザー・涌井』として、もっと自分に自信を持って、打者と勝負していって欲しい。ちょっと、おっかなビックリになっている。それを克服するのは自分。人に何を言われようと、そんなのは関係ない」

 それから24時間後の、きょう。帰り際、勝ちゲームを締めた涌井に訊いてみた。

 今夜のセーブは、これからの闘いに向けて、また新たな第一歩を記すきっかけになったんじゃないかな? 漆黒の闇に覆われた西武ドームの駐車場で、18番は言った。

 「悩んでいたところから、また、スタートが切れたかなと思います」

 前夜とは違う、爽やかな表情だった。

 桜井和寿は唄う。

 「勝利も敗北もないまま 孤独なレースは続いていく」と。

 だが、涌井秀章は孤独ではない。背番号18を想う監督、コーチ陣と、チームメートがいる。そしてスタジアムの中で、あるいはずっと遠くで、声援を送る大勢のファンも-。

 残り22試合。レースの最後は、どうなるのか。

 答えはあくまで、「TOMORROW NEVER KNOWS」だ。

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