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2012年10月23日 (火)

小久保裕紀、胴上げ。演出した「戦友」中嶋聡にも拍手を

 最後に小久保さんを胴上げするんじゃないかな。予感はしていた。日本ハムには「前例」があったからだ。3年前のちょうどこの季節。パCS最終ステージでラストタクトを終えた楽天・野村克也監督が宙に舞い、札幌ドームが万雷の拍手に包まれた。条件は、整っている。

  10月19日のパCS最終ステージ第3戦。日本ハムがソフトバンクを撃破し、3年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。最後の打者は背番号9だった。9回2死二塁。栗山英樹監督は小久保に打席が回った瞬間、勝利を確信したという。

  「申し訳ないけど、野球の神様がいると思った。だって、綺麗じゃない。一時代を築いた選手に、2死で回るだなんて。『悪いけど、許してくれ』って思った」

  試合後のセレモニーが進み、両チームによるそれぞれの応援団へのあいさつを終えると、日本ハムナインが右翼付近の若タカ軍団に接近した。小久保を取り囲み、胴上げが始まった。札幌ドームが道産子の大きな拍手と小久保コールで満たされた。グラウンドレベルで感動的な光景を眺めながら、わたしは思った。「これって、誰の発案なんだろう?」

 試合後、稲葉に訊いてみた。背番号41はさわやかな表情でこたえてくれた。

  「中嶋コーチが9回の時に、みんなで胴上げしようと提案したんです。『最後だから』って。小久保さんが泣いている姿は、ジーンときました。小久保さんも悔いはないと思う。最後に打席が回ってくるなんて、羨ましい。そういう星の下に、生まれてきたのかな。『何とか小久保さんにまで回そう』という気持ちを感じましたよね」

  粋なアイデアは、中嶋聡捕手兼任バッテリーコーチによるものだった。最後の阪急戦士。26年目を迎えた43歳だ。帰り際の駐車場。わたしの問いに中嶋は少しだけ驚いた表情を見せ、淡々と話した。

  「敵味方関係ない。ずっと一緒に戦ってきたんだから、胴上げしてあげたいと思っただけです。もう、プレーできないわけですから。素晴らしい選手だったからね」

  90年代はパ・リーグが大きく変化したディケイドだった。個性的なプレーヤーたちが切磋琢磨を繰り広げた結果、「人気のセ、実力のパ」という図式を超え、パの注目度は飛躍的に上昇していった。小久保と中嶋はその「戦友」でもあった。

  「戦友」は、まだいた。田中幸雄打撃コーチも胴上げを終えた小久保と握手を交わし、これまでの奮闘をたたえた。「『長い間、ご苦労さま』という気持ちだよね。最後に回ってきたのは、彼が一生懸命やってきたご褒美じゃないかな」

 3年経った今でも、野村克也さんは札幌ドームでの最後の胴上げに話題が及ぶと、笑顔でしみじみとこう語る。

  「あれはジーンときたなあ。感動したね。稲葉が言い出したらしい。それで梨田監督の許可を得て、賛同してくれて。前代未聞でしょう、敵のチームから胴上げなんて」

 きっと小久保にとっても、生涯忘れられない思い出になったことだろう。いや、本人だけじゃない。わたしたち野球を愛する人間にとっても、心に残る名シーンになった。

 勝ち負けはもちろん大切なことだけれど、わたしが野球を好きでたまらないのは、ある日突然、こういった光景を目撃できるからだ。そこには勝負の世界を一生懸命に生きる男の汗、涙、想いがつまっている。素晴らしい空間を演出してくれた中嶋コーチには、ただただありがとうと言いたい。そして温かい空間を創り上げてくれた、札幌ドームのファンにも。

コメント

加藤記者さん、素敵な記事に感動しました。

あの日、CSを三連勝で勝ち抜けた事よりも何よりも、小久保コールをした一員として、あの場にいれたことを嬉しく思いました。
ファイターズファンだけど、野球ファンとして、小久保選手の最後を見送れた事は、自分にとっても生涯の思い出です。
小久保選手にもホークスファンにも、ありがとうと言ってもらえた事…最高の誇りをいただきました!
我々ファイターズファンこそ、あの時間を共有させてくれて「ありがとう!」ですねo(^▽^)o

加藤さんにもお会いしたことがある…
通りすがりの中嶋ファンです。
素敵な記事をありがとうございます。
加藤さんの人柄も伝わってくる、そんなブログ、とても素敵です。

阪急に入団した時からの中嶋さんのファンです…ブレーブスの機関誌に小さかったけれど、片隅に載っていて、中沢コーチに対しても素直で明るい感じに吸い込まれ私まで気力が湧いてきて…あの時は“最年少”でした…今後進をマイスタイルで育て…といっても、野球観戦から長く離れてしまってましたが、今年のCS見て、すっかり...もう日ハムファンになりました。
最後の挨拶の時、中嶋さんが落ち着かない風だったのはそのためだったんですね。
たまたま、検索で見つけただけで長々とすみません。
あの感動的な演出が中嶋さんの演出と知り、思わず書き込みをしてしまいました。 中嶋さんのファンで幸せです。
記事、有り難うございます。

うれしいコメント、どうもありがとうございます。とても励みになります。この話は当日、不定期連載「パCS裏劇場」で最終版に何とか掲載できたのですが、パ・リーグを愛する大勢の読者に知って欲しくて、あらためて当欄に書いてみました。ジーンとくる光景でした。

加藤様、はじめまして。
中嶋さんのファンです。
この小久保さんの胴上げの場面、テレビで見ていました。
いつになく、中嶋さんが前へ出て、何か先導しているような気がしていたのですが、そういうことだったのかと改めて感じた次第です。中嶋さんは来季も兼任コーチが決定しました。またユニフォーム姿を見ることができます。ずっと応援していきたい!と、この記事を読ませてもらって感じました。この記事に拍手したいと思います。

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