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2018年12月21日 (金)

アントニオ猪木“本”総選挙…金曜8時のプロレスコラム

 出版不況の中、プロレス関連の書籍は小さなブームとなっている。宝島社や双葉社の昭和プロレス系のムックが継続して発行されているし、書店ではUWF関連の回顧録が人気となっている。

 そこでプロレス本をネット通販サイトのアマゾンで、検索してみると、新日本プロレスが737件でトップ。個人名ではアントニオ猪木参院議員(75、以下敬称略)が387件でトップで、団体の全日本プロレスの324件を上回った。コミックもあるタイガーマスクは237件。UWFは154件だった(いずれも12月20日現在)。

 やはりテレビ朝日系「史上初!現役・OBレスラー200人&ファン1万人が選ぶプロレス総選挙」(昨年3月12日放送)で1位に輝いたアントニオ猪木の存在は、いまだに異彩を放っている。もちろん、ネット通販検索だから、重複や関連ワードで引っかかる書籍、古本もあるが、話題性の数値化であることには変わりはない。

 念のため「プロレス総選挙」での上位20人を調べてみたが、100件超は、力道山196件、ジャイアント馬場190件、前田日明131件、長州力118件、橋本真也115件、棚橋弘至113件だった。

 さて、猪木本の最新刊は今年10月29日に発売されたばかりの「猪木流『過激なプロレス』の生命力」(河出書房新社、1600円+税)。これは、アントニオ猪木と直木賞作家・村松友視氏(78)の対談本で、手前ミソながら、スポーツ報知の福留崇広記者が構成を手がけている。

 村松氏が、元プロボクシング世界王者のムハマド・アリと猪木による格闘技世界一決定戦(1976年6月26日・日本武道館)をテーマに書き下ろした「アリと猪木のものがたり」(同社)をもとに、猪木と村松氏を別々に取材して、対談の形式で構成している。

 猪木と村松氏の対談は1980年代の「月刊プロレス」(ベースボール・マガジン社、現在は週刊)の名物企画だったが、「猪木流『過激なプロレス』の生命力」では、リスペクトし合う双方が顔を合わせては決して言えない本音を個別に聞き出して、それぞれの主張を成立させている出色の対談本だ。「何でもあり」の猪木ワールドが生み出した“格闘芸術”と言っては言い過ぎだろうか。

 ここで、過去の猪木本を振り返ってみよう。やはり自伝から始まる。「燃えよ闘魂」(東京スポーツ、1975年)、「勇気 炎のメッセージ」(スポーツライフ社、1981年)、「苦しみの中から立ち上がれ」(みき書房、1983年)は、黄金時代のバイブルで、私も少年時代に影響を受けた一人だ。その後も、自著は紹介し切れないほど出ているが、決定版は現役引退時に出版された「猪木寛至自伝」(新潮社、1998年)だろう。アントニオというリングネームによって増幅された誇張を脱ぎ捨て、本名で人生を振り返っている。

 評伝も紹介し切れないほどあるが、メジャーの第一人者が村松友視氏。「私、プロレスの味方です」「当然プロレスの味方です」「ダーティヒロイズム宣言」の三部作(情報センター出版局、1980年)で、猪木のプロレスを“過激なプロレス”と定義し、「ファイター 評伝アントニオ猪木」(同、1982年)は、過激実況の古舘伊知郎アナウンサーも引用した名作だ。

 マニアックな第一人者が、井上義啓・元週刊ファイト編集長。「猪木は死ぬか」(プレイガイドジャーナル社、1982年)、「猪木を信じよ」(みき書房、1982年)は、純文学のような筆致で、I編集長(愛称)は、取材記者を超えた“活字プロレス”という文化を生み、“猪木弁護士会会長”と揶揄(やゆ)されるほどだった。この“活字プロレス”をミーハー化させたのが、弟子のターザン山本(元週刊プロレス編集長、現プロレスラー)だ。

 そして、近年では猪木引退後に発表された柳澤健氏の「1976年のアントニオ猪木」(文藝春秋、2007年)がベストセラーになった。前2者とは違って、スポーツノンフィクションを追求するあまり、プロレスの内幕にまで踏み込んでいる。これが売れたため「1985年のクラッシュギャルズ」(文藝春秋、2011年)、「1964年のジャイアント馬場」(双葉社、2014年)、「1984年のUWF」(文藝春秋、2017年)などを連発し、他のライターによる「〇〇年の〇〇」という作品も増えている。

 暴露・スキャンダル系も世間を騒がせてきた猪木だけに多い。月刊誌「噂の眞相」(休刊)の連載から派生した板坂剛氏の「アントニオ猪木 最後の真実」(エスエル出版会、1985年)は、懐かしい遺物。元“過激な仕掛け人”新間寿氏による「さらばアントニオ猪木」(ベストブック、1993年)も今となっては、“輝かしい”通過点だが、これらが自伝と一緒に検索できてしまえるネット時代にあって、猪木はプロレス本検索番付のトップに君臨している。

 近著「猪木流『過激なプロレス』の生命力」で猪木は「俺なりの気づきに至るためには、いろんな批評をする人が大切なんですね」と語っている。それは村松氏に向けられた言葉だが、あらゆる猪木本によって、猪木という存在が大衆に伝わったに違いない。平成の終わりに猪木本を読んでおこう。(酒井 隆之)

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