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2020年8月 4日 (火)

「思考中毒になる!」

 自己啓発書的な書籍を読むことはあまりないのですが、「声に出して読みたい日本語」などのベストセラーで知られる明大教授、齋藤孝さんの新刊「思考中毒になる!」(幻冬舎新書)は、読んでなかなか考えさせられました。

 私自身のことですが、新聞記者になってからは「考えるよりもまず行動」というのが、自分自身の指針となっていました。ですが記者歴も24年になり、50代も目前に迫ってくるとなると、果たしてそれが正しかったのだろうか、と自問することが多くなって来ていたのです。

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 「行動」することは確かに重要ですが、自分の場合に当てはめてみると、熟慮に基づいた「行動」ではないだけに、空回りすることがあまりに多かったのではないか。

 より中身のある「行動」をするためには、まずは「思考」しまくることです。本書の長所は、そのために心がけるべきことが具体的な事例で埋めつくされている点です。

 齋藤さんが説かれていることに、もっと早く気づいて習慣化すべきだった! いやいや、何かを始めるのに遅すぎるなんてことはないはずです。早速今日から心がけたい。自分の頭で「思考」するという習慣を身に着けることは、より主体的に生きるということに他ならないのだと、感じています。

2020年7月29日 (水)

「白嶺の金剛夜叉 山岳写真家 白籏史朗」

 山岳写真の巨匠、白籏史朗の評伝「白嶺の金剛夜叉」(井ノ部康之著、山と渓谷社)を読みました。山梨県大月市で生まれ育ち、日本の山岳写真文化を牽引して、86歳の生涯を閉じるまでを綿密に取材した濃厚な1冊です。

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 私が白籏史朗の山岳写真を初めて目にしたのは、高校1年の夏休みでした。北岳、甲斐駒、仙丈ケ岳に登る南アルプス合宿を終えて、帰京した後に立ち寄った紀伊国屋書店で目に飛び込んできたのが白籏の写真集でした。カラー写真をめくるめく驚いたのは、ついこの間見て来たはずの山々が、自分の肉眼で見るよりも、荘厳な造形美で写し出されているのです。「確かにすごい風景を見て来たが、こんなにもすごかったか」。自分の目がニセモノを見て、写真でホンモノを見せつけられたような奇妙な気持ちになったのを覚えています。

 白籏の写真には、見る者の視覚を強烈に刺激し、この世界を視覚だけではなく五感で感じたいという思いにさせ、実際の山へと引きずり込む強力な引力があると私は思っています。南アルプス、尾瀬、富士山、北アルプス、そして海外の名峰…。数々の名写真が生み出される背景には、何があったのか。すべてが知らないことばかりでした。

 最後まで銀塩フィルムでの撮影にこだわった白籏のイメージは「静」でしたが、波乱万丈の生涯を知った読後のイメージは「躍動」へと変わりました。

 写真だけではなく、山を言葉で表現する詩人でもあった。改めて、白籏が遺した数々の山岳写真を見て、再び自分の足で訪れたいという思いに駆られています。

2020年7月28日 (火)

「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」

 ポレポレ東中野で公開中のドキュメンタリー映画「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」(脚本・監督、小原浩靖)を観てきました。

 太平洋戦争の敗戦後、フィリピンと中国(当時の満州地方)に置き去りにされた残留邦人の今を追った作品です。父親はフィリピンゲリラに銃殺され、母親は山奥に逃げ込み、今もなお無国籍状態に置かれたフィリピン残留日本人二世。1970年代にやっと帰国が叶うも、言葉の壁による差別と貧困に苦しんで来た中国残留孤児たち。

 すでに80歳を超える高齢者となった彼女、彼らの表情からは時代に翻弄された「侵略戦争の爪痕」を感じずにはいられません。

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 ここまで人間は献身的になれるのか、と感嘆したのは、フィリピン残留邦人の日本国籍取得のために奔走する河合弘之弁護士と、同氏が代表理事と務めるフィリピン日系人リーガルサポートセンターのスタッフたちの姿です。撮影時の時点での調査で残留2世の邦人は1069人。しかし、父親の名前すら曖昧になってしまっている場合は少なくなく、国籍取得の法的な手続きを進めることは容易ではありません。

 戦争という国策が生んだ悲劇。映像の中で東南アジア研究を専門とする清泉女子大の大野俊教授は「本来は政府が支援すべき」と指摘しています。当事者たちはすでに高齢になっており河合弁護士も、政府が望んでいるのは「問題の解決ではなく問題の消滅ではないか」と懸念しています。

 だからといって作品では「政府∥悪」という単純な図式では描いていません。70年代には中国残留孤児の存在をマスメディアが大々的に取り上げることにより、政府も調査に着手し、帰国が実現しました。フィリピンの残留邦人の問題も志のある政治家が支援に乗り出しています。

 まずは私たちがこの悲劇を知り、そして共有すること。残された時間で前に薦めるには、そこから始めるしかないように思いました。
https://wasure-mono.com/

2020年7月19日 (日)

「ジョージ・オーウェル―『人間らしさ』への讃歌」

18日に出版された「ジョージ・オーウェル―『人間らしさ』への讃歌」(川端康雄著、岩波新書」を即日購入し、一気に読み終えました。翻訳されているオーウェルの作品はほとんど読んでいますが、作品の時系列的な流れが分かる評伝を読みたいと長年思っていたので待望の一冊です。著者の川端氏は、これまでもオーウェル評論集などの翻訳を手掛けてきた英文学者です。

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 英国のエリートが通うイートン校に奨学生として入学し、卒業後はインド帝国の警察官としてビルマに赴任。そこで帝国主義を「いかさま」と捉えたオーウェルは高給取りの生活を投げ捨てて、パリ・ロンドンの貧民街に入り込み、初めてのルポ「パリ・ロンドン放浪記」を書きます。

その後、スペイン内戦に従軍し、銃撃されて喉を貫通する重傷を負いますが、九死に一生を得て「カタロニア讃歌」を出版します。その後、ソ連を風刺した「動物農場」を発表し、最もよく知られているディストピア小説「一九八四年」を発表したのは、晩年のことでした。

オーウェルは、作品を書き続ける意欲 を持ち続けたまま46歳で亡くなっています。最晩年に抱えていた問題意識は、現代人の宗教観でした。来世への信仰を持たなくなった現代人がいかにして宗教的態度を取り戻せるか、というテーマ。イデオロギーやドグマを排し、人間の根源的な平等を理念としていたはずのオーウェルが、それをどのように描いたか。読めずじまいだったのは残念です。

一つひとつの作品が生まれる経緯が分かっただけでなく、優れた作品を発表してもすぐには売れず、経済的には恵まれていなかったこと、また結婚相手のことや養子を得たことなどの私生活については初めて知りました。

 個人的には、オーウェルについては小説家としての側面よりも、臨場感あふれるルポルタージュの書き手としての側面が好きです。その背景を知ることができたのが最大の歓びでした。

2020年7月17日 (金)

「ルポ百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地」

 ノンフィクションライター、石戸諭さんの新刊「ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地」(小学館)を読みました。百田氏と言えば「海賊とよばれた男」や「永遠の0」などの万人に感動を呼び起こす名作小説の書き手である一方、ツイッターで「反日」を叩く過激な発言を繰り返すことで知られています。そのギャップは、いったい何なのだろうか。百田氏本人だけでなく保守派の論客たちへのインタビューを通じて、ベストセラー作家の本質に迫ったノンフィクション作品です。

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 石戸さんは、「現象としての百田尚樹」が誕生する土壌ができた転換点を1996年としています。「自虐的」な歴史教育を見直そうと藤岡信勝氏を中心に「新しい歴史教科書をつくる会」ができ、「自虐史観」なる言葉が誕生しました。さらに西尾幹二氏、小林よしのり氏ら保守派の論客が、自らの歴史観を説いた大著を出版し、大きな反響を呼びました。百田氏は、彼らが作り出した土壌の上に立っていると見て良いと思いますが、その上で百田氏が巻き起こした反響は「新しい現象」であるという鋭く分析しています。

 石戸さんは「リベラル派」の立場と言って良いと思います。その上で、あえて対極的な立場に立つ百田氏らのインタビューを試みた思いは、終章に綴られた以下の言葉に集約されているように思います。

 「今は論戦そのものがなくなり、左と右を始め、さまざまな分断線が引かれ、お互いの行き来がないままに党派で固まり「論」を重ねる場ごと消滅しつつある。その結果起きるのは、集団極性化であり、より過激になっていく言葉のぶつけ合いだ。」

 価値観が違う者同士が対話し、議論をすることは、いつの時代でも必要であり、もちろん現在もそうでしょう。その上で、私たちが認識して置くべきなのは、自己の価値観とそぐわない「事実」を突きつけられても、個々の人間が持っている価値観というものは、そう簡単には変わらないという厳しい現実なのかもしれません。

2020年7月11日 (土)

「バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち」

今春、文庫化された「バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち」(澤宮優著、集英社文庫)を読みました。

 打撃投手とも呼ばれるバッティングピッチャーとは、試合には出ず、打撃練習のために投手を務める日本球界独自の専門職です。松井秀喜、清原和博、イチロー…。誰もが知っている名選手のパートナーを務めてきた打撃投手に視点を向けることで、スラッガーたちの新たな一面が浮かび上がってきます。

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 著者の澤宮優さんは「日の当たらない場所で一生懸命生きている人に光を当て」ることをモットーとするノンフィクション作家。本書も、その視点から球界を描いた異色の傑作です。球界に限らず、裏方というのは多くを語らないのが世の常。実は語るに値するものを持っていることに、本人は気がつかないものです。それを掘り起こすことこそ、ノンフィクションの書き手の仕事と言って良いでしょう。

 一読して感じたのは、打撃投手というのは、打者に合わせる受け身の姿勢ではなく、主体性のある専門職であるということです。必ずしも、打者にとって打ちやすい球を投げるだけでなく、時には打者に弱点を気づかせるために投げることもある。それは言葉で伝えるよりも、より効果的な場合があるはずです。

 打者にしてみれば、言葉による助言を受けるのではなく、自ら「気づく」という能動的な精神作用をもたらすことができるのでしょう。言語を超えたコミュニケーションにより、他者に変革をもたらす「打撃投手」は、球界に限らず、社会の至るところに必要な存在ではないか、と感じました。

2020年7月 6日 (月)

「令和の巨人軍」

 「プロ野球死亡遊戯」で知られる現役巨人ファンのライター、中溝康隆さんの新刊「令和の巨人軍」(新潮新書)を読みました。

 昭和のヒーロー、王・長嶋もいなければ、平成のゴジラもいない。地上波中継はなくなって久しく、巨人帽を被った少年を街中で見かけることはめったになくなってしまった。

 それでも、待望の生え抜き4番・岡本和真、不動のエース、菅野智之、史上最高の遊撃手、坂本勇人…。今の巨人にはオーラのある選手、個性豊かな選手がそろっているんです。そうか、彼らは目の前の敵だけではなく、人々の脳裏に焼き付いたノスタルジーとも、きっと戦っているんだな。輝かしい歴史を踏まえつつ、アップデートされた現在の巨人を論じた1冊。こんな巨人論をずっと読みたいものだと思っていたら、まさに、語るにふさわしい中溝さんが出してくださいました。

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 V9時代のプロスポーツと言えば、野球以外には大相撲とボクシングぐらいしかありませんでした(プロレスも入れるべきかもしれませんが)。ところが、今やJリーグが誕生してまもなく30年。プロバスケットボールのBリーグの認知度もだいぶ高まってきました。海外の各スポーツも中継で楽しめる時代です。プロ野球以外にも、楽しめるプロスポーツはいくらでもあります。
 そんな時代だからこそ、敢えて昭和のプロスポーツの代名詞ともいえる「巨人軍」に注目することで、改めて気がつくことはあまりに多い。ファンにとって「今の巨人戦を10倍楽しめる本」と言っても良いでしょう。そしてアンチも、どっちでもない人も、皆が楽しめる新書です。

2020年6月27日 (土)

「国家と移民」

集英社新書の最新刊「国家と移民 外国人労働者と日本の未来」(鳥井一平著)を読みました。

 外国人労働者なしでは成り立たない今の日本社会。昨年4月には入管法が改正され、「特定技能」による受け入れが国策として始まりました。しかし、いまだに「時給300円」などのあり得ぬ待遇で彼らを使い捨てることがまかり通っている日本は、受け入れるだけの成熟した社会になっているのでしょうか。

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  著者の鳥井一平さんは「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」の代表理事として、長きにわたって外国人労働者たちを支えている人物。私はジャーナリスト安田浩一さんの著書「ルポ 差別と貧困の外国人労働者」(光文社新書)を読んで鳥井さんの存在を知り「こんなすごい人がいたのか」と感銘を受けていたのですが、著書を読んで益々尊敬の念が高まりました。

 目指すのは、労使対等の原則が担保される多民族多文化共生社会。これまで人権侵害に遭ってきた外国人の立場で支援をしてきても、労使双方の立場を「正義」と「悪」では二分できないと鳥井さんは言います。40歳の時には未払いの賃金債権を差し押さえに立ち会った時には経営者からガソリンをかけられ、火を放たれ、全身に大やけどを負うということもありました。

 そこで鳥井さんは「使」側も弱い立場であることに気がつきます。文字通り全身で外国人たちの労働争議に向かい合ってきた体験には並々ならぬ説得力を感じました。

2020年6月20日 (土)

「女帝」

小池百合子東京都知事の評伝「女帝」(石井妙子著、文藝春秋)を読み終えました。評判に違わぬ読み応え。とても面白いのですが、小池さんによって数々の人々が翻弄されてきたことや、現在は都民の生命、生活がこの人に委ねられているという事実を考えれば決して笑うことはできません。

 安っぽい暴露本ではなく、小池さんを生い立ちから非常に深く、丁寧にしらべあげた本格的な人物ノンフィクションです。最大の読みどころはカイロ大学時代に塗り込んだ虚飾。そこに至る経緯とその後の歩みをみれば半端ではない説得力があります。私は政治の取材をしていた2009~2018年の取材メモと照らし合わせながら読み進めました。

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 まだ格闘技担当をしていた2007年頃、ボクシングの亀田興毅然の試合を取材に行った時、リングサイド最前列に小池さんがいたをよく覚えています。取りあえず、著名人のコメントを集める役割だったので、談話を取りにいったのですが、なんで環境大臣が亀田の試合を観ているのだろう、という謎は残りました。10年以上前のそんな些細な疑問まで本書を読んで、やっと合点がいきました。

 都知事選の真っただ中で話題になっている小池さんの学歴詐称疑惑は、確かに、さほど重要ではないかもしれません。学歴は政治家の手腕とは全く無関係です。ただ、筆者の石井さんが指摘しているように、この学歴疑惑には小池さんの人としての在り様を考える上で、外せない問題だと思います。それは本書を読めば感じられることでしょう。

 都知事選の前に、有力候補者の素顔を伝えてくれた石井さんには、ノンフィクションファンとしてだけではなく、都民の一人としても感謝をしたいと思います。小池さんの支援を決めている自民・公明党の支持者の方も是非、これを読んで小池さんが都知事にふさわしいかをもう一度考えてみて頂きたいです。

 私は2017年の都議選で都民ファーストの候補者の方々も取材しましたが、多くは誠実な方々で、都民の生活を向上させようという意欲に燃えた方々でした。小池さんはそのリーダーとして本当に相応しいのか。是非、彼女たちも、この本を読んでみるべきだと思います。

2020年6月16日 (火)

映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」

 ポレポレ東中野が上映再開。早速新作ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)を観てきました。首相・安倍の「桜を見る会」を追及する質疑で知られる小川淳也衆院議員(当選5期、四国比例)を初出馬した2003年から追った作品です。

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 東大法学部を出て総務省に入るも、官僚に失望して政界へ。しかし、霞が関も、永田町も志だけではままならない。誠実だが、愚直とも言える一議員を通じて政界の現状を描き出しています。

 あえて単純化してしまえば、小池百合子都知事とは対照的な政治家と言えるかもしれません。この昨品は、小池氏の「排除発言」後に小川議員が翻弄されるところが最大の見どころと言っても良いでしょう。

 東京都民には都知事選の前にお勧めしたい映画。都民以外の方にも是非観て欲しいと思います。

甲斐毅彦

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