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2018年8月14日 (火)

「ありがとうもごめなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」

  敬愛するノンフィクション作家の高野秀行さんが絶賛していた「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」(奥野克巳著、亜紀書房)を精読しました。

 著者は立教大学異文化コミュニケーション学部教授の文化人類学者。ボルネオ島の狩猟採集民「プナン」との11年に及ぶフィールドワークをまとめた知的好奇心を駆り立てる濃厚な一冊です。

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  私たちは社会で生きる中で「感謝」と「反省」の気持ちを持って、それを明日に生かしていくのが、あるべき姿だと思っているわけですが、貸したモノを壊したまま返して何も言わない「プナン」には、そもそも「感謝」や「反省」といった概念がない。それでも民族のコミュニティーは持続しているのです。

 

 おかしいのは私たちなのか、「プナン」なのか。全く違った価値観で暮らしている民族について調べていくと、そもそもなんで私たちは「感謝」や「反省」をするようになったのかという根本的な疑問に行き着きます。

 卑近な例を挙げれば企業不祥事やら著名人の不倫について開かされる「謝罪会見」は、当事者に向けてのものではありません。当事者ではない「世間」に対して反省の意を示す必要が本当にあるのだろうか。そんなことを考えてしまいました。

 本書はノンフィクションとしても面白いのですが、「近代」を否定したポストモダンの先駆者とも言えるニーチェの言葉をプナンの価値観に照射しているのが最大の特徴です。アカデミズムをもって、世界観を揺さぶるすごい本です。

 私も立教大生時代にこういう先生の授業を聴きたかったです。

2018年8月13日 (月)

「日航123便 墜落の新事実」

 日航123便墜落から12日で33年。昨年出版されて読みそびれた「日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」(青山透子著、河出書房新社)を読みました。

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 著者は専業のジャーナリストやノンフィクション作家でなく、当時の日航の客室乗務員。多くの同僚や先輩が最後まで職務を全うしようとして亡くなりました。本書や前著の「天空の星たちへ」を出版されたのは、真相を究明したいという強いがあるからに他ならないでしょう。

 墜落から2年後に事故調査委員会が出した「後部圧力隔壁の修理ミス」とされた事故原因には、当時から疑問の声が上がり、撃墜されたのではないかという陰謀説まで浮上しました。 

筆者の青山さんが指摘するのは主に以下の点。

①墜落前に123便を追尾するファントム2機の目撃証言が複数あること

②事故犠牲者が機内で撮った空の写真にオレンジ色の物体が写っていた事実

③墜落現場には燃料ではないガソリンやタールの臭いが漂い、遺体が完全炭化されていたという事実

 青山さんはこれらの証言や資料を集め、事故ではなく事件だったのではないかという仮説を展開しています。本のタイトルとしては「墜落の新事実」ではなく「墜落の真相」のほうが的確なのかもしれません。

 青山さんの仮説がすべて正しいかどうかは別として、多くの遺族が事故調査結果に納得していないにも関わらず、調査が打ち切られてしまっています。これには現在の日本政府にも通底する政治への不信があると言って良いでしょう。ジャーナリストでも、ノンフィクション作家でもない著者が自力で真相に迫ろうとした真摯な姿勢に胸を打たれました。

2018年8月12日 (日)

映画「カメラを止めるな!」

話題の映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)を観て来ました。

 まったく事前知識なしで観たので、最初は「なんだこりゃあ」という感じでえげつないシーンを観ていたのですが、途中からすっかりはまってしまいました。こんな仕掛けの映画を観たことはありません。これほどネタバレすれば台無しになってしまう映画はなく、人には「ゾンビの映画。面白いから観て」と。これ以上は言わないほうがいいでしょう。

 それでも一つだけ言わしてもらえば、この映画はフィクションなので虚構なわけですが「虚構のマトリョーシカ」のようになっており、それが実は壮大なドキュメンタリーなのではないか、と思ってしまう。それほど素晴らしい作品です。

 

 出演者に私が知っていた方は一人もいらっしゃいませんでしたが、皆さん味わい深く、大好きになってしまいました。

 この映画はわずか84席のk’sシネマで上映が始まった「インディーズ映画」ですが、話題が話題を呼んでこの夏に大ヒット作となりました。豪華キャストを使ってヘタにお金ばかりかけた映画よりも絶対面白い。お勧めです。

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2018年6月16日 (土)

「世界難民の日」

6月20日の「世界難民の日」を前に16日、JR渋谷駅ハチ公前広場で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による啓発イベントが開催されていました。

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 難民キャンプで実際に使用されているテントを設営。1件につき、栄養補助食品50円分が寄付される署名を募っています。

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 イベントには9年前に難民としてアフガニスタンから来た東大大学院生のジャファル・アタイさん(28)も参加。


首都カブールで生まれ、3歳の頃にタリバンに家を追われ、内戦が激しくなる中で、住まいを転々。 2009年に来日しました。

 苦学しながら難民高等教育プログラムに応募し、2012年、明治大学に入学。現在は東大大学院の総合文化研究科で「アフガニスタンの平和構築」を研究しています。

私を含めて難民についての知識は乏しい人がほとんどだと思います。「文化や宗教が違う人との共存は、マイナス面が強調されがちですが、異なった社会的背景を持つ難民を助けることは人類への貢献というプラス面があると思います」とジャファルさん。世界で起きていることについて考える貴重な機会でした。

 

2018年6月10日 (日)

「日本の気配」

 フリーライター、武田砂鉄さんの最新刊「日本の気配」(晶文社)を読みました。ヘイト、安倍首相、稲田朋美氏、小池百合子都知事、ショーンK、新国立競技場など幅広い時事ネタを類例のない文体でつづった類型化が難しい本。

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 3年前に武田さんがデビュー作「紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす」を出版したときに著者インタビューしましたが、皮肉に満ちた世の中への着眼点が面白く、注目していましたが、最新刊も1冊目に劣らぬ面白さでした。

 的確に簡潔に本の内容を伝えるのは困難なので、読んでいただくしかないのですが、読後は「あとがき」に書かれている以下の言葉に深く共感しました。

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 「ムカつくものにムカつくと言うのを忘れたくない。個人が物申せば社会の輪郭はボヤけない。個人が帳尻を合わせようとすれば、力のある人たちに社会を握られる。今、力のある人たちに、自由気ままに社会を握らせすぎだと思う。」

2018年5月 6日 (日)

映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」

 韓国で大ヒットした映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」を新宿で観てきました。1980年5月の光州事件をテーマにした作品。とても楽しみにしていったのですが、期待以上の面白さでした。絶対お勧めです。

 何よりもエンタメ作品としての出来が秀逸なのですが、民間人168人が犠牲になり、鎮圧した側の軍人、警察官も27人が死亡した大騒乱を圧倒的な迫力でリアルに描いています。

 

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  光州事件とはざっくり言えば、民衆運動の拠点となっていた全羅南道光州で、学生・労働者の民主化運動を戒厳軍が武力弾圧し、多数の死傷者が出た事件です。朴正煕(박정희)大統領暗殺後の1979年12月、全斗煥を中心とする軍部が実権を掌握し、非常戒厳令を全国に拡大したことへの市民の反発が発端でした。

  名優、ソン・ガンホが演じる主人公は純朴で人間味あふれるソウルのタクシー運転手。学生デモのとばっちりで商売上がったりだ、と嘆いているところで、光州への潜入取材を試みるドイツ人ジャーナリストを乗せて光州へ向かうことになります。

   政治などまったく関心がなかったタクシー運転手が、この騒乱に巻き込まれてしまうハチャメチャな話。ですが、視点は一貫して民衆の側から描かれており、また弾圧があるところにこそ、報道する者の使命があるということを強く感じさせる作品でした。
 
 まだ当事者がたくさん生きているこの騒乱をエンタメ作品にしてしまうことだけでも、日本との国情の違いを感じさせられます。ただ、現在の文在寅大統領は「今の政権は光州民衆運動の延長線上にある」と宣言していますし、ある意味では作品化の機が熟したと言えるのかもしれません。

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

2018年5月 3日 (木)

「新・冒険論」

 大学の山岳部や探検部に所属した者にとって長年、未踏峰や未踏の地を目指す行動原理の指針となって来たのは、元朝日新聞記者のジャーナリスト・本多勝一氏が書いた「『創造的登山』とは何か」(「山を考える」に所収)や「冒険と日本人」でした。


 1990年代前半に大学山岳部に所属していた私もそうでした。「人の行かないところへ行きたい」という単純ながらも消しがたい願望がなぜわき出てくるのか。そして日本社会ではなぜその行動が叩かれるのか。本多氏のこれらの著書は、これらの疑問に明快な答えを出してくれるもので、読んだ時の感動は30年近くたった今でも忘れられません。

 しかし、本多氏の著作はいまやだいぶ「年代物」になってしまっています。「『創造的登山』とは何か」が書かれたのは63年前の1955年、「冒険と日本人」に収められた文章もほとんどは40年ほど前に書かれたものです。
 山岳部や探検部で過ごした者の多くは、本多氏の冒険論を頭の中を引きずりながらも、結局は大したことができずに壮年期を迎えてしまう…。私もその一人です。

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 早大探検部出身の探検家・ノンフィクション作家の角幡唯介氏の新刊「新・冒険論」(集英社インターナショナル、799円)は、本多氏の冒険論を数十年ぶりに更新した画期的な本です。


 なぜこれほどまでに長い間、更新されなかったのか。それは語りうる人物が、本当の意味での冒険を実践している人物でなくてはいけないのが、まず一点ではないでしょうか。もう一点は、自身の冒険行動の本質を突き詰めようと思考する人物でなくてはならないからだと思います。


 角幡氏は、チベットの未踏部ツァンポー峡谷を単独で踏破し、ヒマラヤで雪男を探索し、北極探検隊全滅の真相を追い、そして極夜の北極を探検し、ノンフィクション作品にして来た人物。言うまでもなく冒険論を語る2つの条件を満たしています。


 現代において地理上の空白地帯を見つけること自体がもはや困難です。角幡氏は現代の探検を脱システム(社会や時代のシステムから脱する行為)だと定義づけています。2016年から17年にかけて行った北極の極夜探検は、まさにその実践に他ならないでしょう。


 角幡氏は、マニュアル化されたエベレスト登山やアドベンチャーレース、「最年少での北極点到達」といった行為を角幡氏は「疑似冒険」と喝破する。それは本書で語られている冒険と照らし合わせれば、納得ができるはずです。
 そして読み終えた後は、人生の中で一つでいいから「脱システム」を成し遂げてみたいという衝動に駆られることでしょう。

2018年4月16日 (月)

武蔵野の面影が消える

 東京・中野区の「平和の森公園」の樹木1万7787本を伐採して体育館などのスポーツ施設建設を進める計画に異議を唱える区民が、田中大輔区長を被告に起こした住民訴訟の第1回口頭弁論が16日、東京地裁で行われました。

 そもそも23区内の中で2番目に緑が少ない中野区。わずかに武蔵野の面影を残す貴重な緑を伐採して、スポーツ施設を作る必要がどこにあるのだろうか。というのが住民の訴えです。

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  中野区立野方小学校(現・平和の森小学校)出身の私は、後に平和の森公園となる中野刑務所の裏山が主な遊び場でした。1983年に刑務所がなくなり、公園が整備されたわけですが、この時点でもだいぶ緑は失われました。そして今回の再開発では数少ない緑にトドメを刺されてしまうことになります。

  私の娘にとっての平和の森公園は大切な遊び場です。私の周辺では、樹木を伐採してのスポーツ施設建設を望む声をまったく聴いたことがないのですが、いったい誰が求めているのでしょうか。そして誰が儲かるのでしょうか。

  公判には113人の市民が集まり、抽選での傍聴となりました。たくさんの方が関心を持っている証拠です。

  口頭弁論で原告の一人根岸志のぶさんは「平和の森公園では、例年のような新緑を楽しむことが出来なくなりました。緑も公園も都内最下位に近い中野区にとって、平和の森公園はかけがえのない宝物です。この区民の財産の管理を怠る中野区の姿勢を、私たちは決して許すことができません。これからの中野の子ども達のためにも、必死の思いを込め訴えるものです」と述べました。

  第2回口頭弁論は6月13日。しかし、裁判の進行よりも開発計画は着々と進められており、緑を守りたい立場としては予断を許さぬ状況です。

2018年3月24日 (土)

ドキュメンタリー映画「獄友」

 
  24日からポレポレ東中野で公開されたドキュメンタリー映画「獄友」(金聖雄監督)を早速観てきました。

 袴田事件の袴田巌さん、布川事件の桜井昌司さん、杉山卓男さん、足利事件の菅家利和さん、狭山事件の石川一雄さん。彼らは殺人事件の犯人としてともに青春時代を刑務所で過ごした「獄友」。無罪を勝ち取った4人と今も第3次再審請求中の石川さんとの交流を撮った作品です。

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 彼らは口をそろえて「不運だったけど、不幸ではない」と言います。やってもいない殺人犯で、人生を台無しにさせられたのだとしたら、首をひねってしまう言葉ですが、映画を観て納得できました。彼らが刑務所生活で失ったものは、もちろん計り知れないわけですが、逆に得たものも大きかったのです。...

 まるでタレントのように活発な活動をする桜井さんの姿や、現実と自分の頭の中で築き上げてしまった世界をさまよい続けている袴田さんの姿を見て、目に見えないものへ想像力を働かせることがいかに大切か。改めて考えさせられました。

 菅家さんは釈放されて手記「冤罪 ある日、私は犯人にされた」(朝日新聞出版)を出版した2009年にインタビューをさせて頂いたのですが、その頃よりも血色も良く、顔もふっくらされていて、充実した人生を過ごされているんだな、と感じました。

 石川さんのお姿は、取材で東京地裁の前を通るときにいつも拝見します。無罪を勝ち取る戦いはまだ続いているのです。
http://www.gokutomo-movie.com/
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「君たちはどう生きるか」

 漫画版が170万部を超えるベストセラーになっている「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著)を原作の岩波文庫で読みました。

 この本は大学3年生の時に勧めてくれた知人に頂いたのですが、あまり読む気にならず、ほったらかしにしていました。それから27年。ブームに火が付いているのを機に読んでみたのですが、これはやはり学生のうちに読んでおくべき本でした・・・。

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 この本が刊行されたのは日中戦争の発端となった盧溝橋事件が起きた1937年。軍国主義が勢いを増し、泥沼の戦争、そして破滅的戦争へと突き進んでいく時代でした。言論統制が厳しくなる中で「せめて子どもたちには、時勢の悪い影響から守りたい」という願いを込めて書かれた本なのです。

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 主人公は旧制中学校に通う15歳の「コペル君」。学校でのいじめや同級生間の家庭の「階級」の格差と向いあう中で、コペル君は悩みます。その悩みを受け止める「叔父さん」との対話で、コペル君は成長していきます。

 テーマは、価値観や立場が違う「他者」とどう共存し、どう共生していくかということ。80年以上前に書かれたとは思えないほど現代的なテーマであり、未来を背負う子どもたちへの愛情が全編にほとばしっています。

 排外主義的な風潮が高まり、時勢が80年前と似ているとの分析もある中で、この本が注目され、読まれていることは救いのような気さえしてきます。

甲斐毅彦

2018年8月

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