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2021年12月 3日 (金)

「水俣曼荼羅」

「ゆきゆきて、神軍」で知られるドキュメンタリー映画の巨匠、原一男監督の超大作「水俣曼荼羅」を渋谷のシアターイメージフォーラムで観てきました。
 6時間12分に及ぶ3部構成。水俣病の現在という深刻なテーマでありながらも観る者を全く飽きさせない原監督の力量には改めて驚異的なものを感じました。
 高度経済成長の代償とも言える四大公害病の一つ、水俣病。生まれながらにして不自由な体のまま育った胎児性の患者や小児性の患者たちの姿からは、今なおこの公害問題が終わっていないことが伝わってきます。
 原監督は国や県と裁判で争い、補償を求める当事者や医師、支援者らを20年にわたって撮影。その密度の濃い物語をまとめた6時間12分は、まさに「一瞬」に感じると言っても良いでしょう。
 絶対にお勧めしたい理由として、最も強調しておきたいのは「正義」を振りかざす教条主義的な映画とは対極にあるという点。苦しみながらも、明るく生きようとする当事者たちの表情、支援する人々の想い、糾弾され、押し黙るばかりの行政従事者…。あるがままの人間の業を目の当たりにするドキュメンタリーの醍醐味は、まさにここにあるでしょう。
 原監督が描いた「曼荼羅」は観終わった後も、生命力を持って頭の中で渦巻き続けています。

2021年11月28日 (日)

「家族不適応殺」

  2018年6月9日に起きた新幹線無差別殺傷事件の犯人を取材したルポ「家族不適応殺」(インベカヲリ☆著・角川書店)を読み終えました。
 「無期懲役の判決を得て、一生刑務所で暮らしたい」。この願望を叶えるため、当時22歳だった小島一朗は、東海道新幹線の車内で、男女3人をナタで襲撃。止めに入った男性1人を殺害し、女性2人に重軽傷を負わせました。
 そして法定において「希望どおり」の判決が言い渡された時には裁判長の制止を無視して大声で万歳三唱―。
 写真家でもある著者は、拘置所の小島と手紙のやり取りをし、複数に渡って面会。なぜこのような異常な人間になってしまったのかという疑念は、小島の家族への取材を繰り返す中で、少しずつ解けていきます。
 「刑務所に入りたい」「死刑になりたい」。これらの身勝手な願望を叶えるための犯行は、小島が起こした事件の後も繰り返され、今年も8月6日には小田急線内で、10月31日には京王線内で刺傷事件が起きています。何が暴発する彼らを生み出しているのか。まず、その背景を知ることは意義のあることだと思います。

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2021年11月13日 (土)

「狩りの思考法」

探検家・ノンフィクション作家、角幡唯介さんの最新刊「狩りの思考法」(アサヒグループホールディングス)を読み終えました。
 1年間のうち約半分を北極圏グリーンランドのイヌイット集落シオラパルクに「単身赴任」し、犬ぞりで移動しながら狩猟で食料を調達するという行動原理を、角幡さんは計画性のある探検ではなく「漂泊」と表現しています。
 本書は狩猟民イヌイットと同様に「漂泊」を行動原理とすることにより、体感した狩猟民の世界観、思考法を活字化したエッセイです。
 その象徴的な現地の言葉が「ナルホイヤ」。これは「未来はわからないのだから計画にとらわれず、目前の状況に集中しろ」という倫理観らしいのですが、日本語で最も近いニュアンスの言葉は、どうやら「知らんがな」といった半ば投げやりな感じになるようです。
 イヌイットのこの投げやりとも言える態度については、古典的な名作ルポとして知られる本多勝一の「カナダ・エスキモー」の中でも言及されています。約60年前に出版されたこのルポの中では、その根源的な理由までは書かれていないのですが、角幡さんは自らの狩猟体験を通じて、一つの答えを導き出しました。ここが肝となるところでしょう。
 言うまでもなく、人間は他の生命を奪って自らの食料としなければ、命を保てないわけですが、日常的にはそれを意識することはありません。それが農耕以前の狩猟という人間と自然との始原的な営みにまで立ち返ると体で実感することができる。逆に白熊や海象(セイウチ)からみれば、人間が「獲物」という立場に変わるわけです。明日は獲物をとっているかもしれないし、獲物になっているかもしれない。確かなことは「今」だけということです。
 読んで感じたのは禅の真髄と言われる「当処 即今 自己」と通底する価値観なのでないか、ということです。もちろんイヌイットに禅文化があるわけではないでしょうが、人間の営みを始原にまで辿っていくと同じところに帰一していくということなのかもしれません。
 角幡さんは野性の中に生きながらもハイデガーの「存在と時間」や井筒俊彦の「意識と本質」などの難解で抽象的な哲学書を読み込んでいる探検家です。これまで触れて来た哲学に「ナルホイヤ」の精神を照射してみたのではないでしょうか。本書の中では、そこまでは踏み込んでいませんが、気になるところです。
写真の説明はありません。
 
 
 
 
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2021年11月12日 (金)

「ニュースの未来」

 ノンフィクションライター、石戸諭さんの「ニュースの未来」(光文社新書)を読みました。インターネット時代に入って、新聞やテレビなどの伝統メディアは構造の転換を迫られていますが、かといって新興ネットメディアも十分な収益が上がるほど成功しているケースも多くはありません。
 
 「ニュース」に携わる人たちが自信を失いつつある現状を踏まえつつ、本来の「ニュース」の役割とその創造性、可能性について多角的に語った優れた論考だと思いました。
 
 著者は2006年に新聞記者になり、10年でネットメディアの「Buzzfeed Japan」に移籍。2年後にフリーのライターとして独立しています。新聞も、ネットメディアも「限界」を感じての判断ですが、いずれも惰性では身を置きたくなかったのでしょう。
 
 ニュースを語る上で、ノーベル賞作家のガルシア・マルケスを冒頭にもって来る展開は非常に独創的。著者が相当な量のジャーナリズム関連書籍やノンフィクションを読み込んで、自身のライターとしての価値観に落とし込んでいることが伝わる1冊でした。新たな気づきも多かったです。

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2021年10月25日 (月)

「コレクティブ 国家の嘘」

 渋谷のシアターイメージフォーラムで公開中のドキュメンタリー映画「コレクティブ 国家の噓」(アレクサンダー・ナナウ監督)を観てきました。ルーマニアの作品です。
 2015年に首都ブカレストのライブハウスで起きた大火災で27人が死亡。それだけでは収まらず、4か月後には入院先でさらに37人が亡くなる大参事となった。政府の保健相は「医療過誤ではない」と主張するが、使用された消毒液が10倍薄められていたことが判明。そこに切り込み、調査報道に乗り出すのは、なんとスポーツ新聞の記者でした。
 権力は利権があるところと癒着し、都合の悪い情報は隠蔽する。ルーマニアという比較的なじみの薄い国でのことなのに、まったく他人ごととは思えず、私たちが政治に対して感じている不信感をそのまま見出したようにも感じました。
 何より勇気づけられたのは、事実を明らかにしたルーマニアのスポーツ紙記者、トロンタン氏の業績が、市民から「スポーツ新聞史上最高の調査報道」と称賛されるところでした。
 遠い国にも、ジャーナリズム精神をもって奮闘している大衆メディアの記者がいるのです。
 

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2021年9月13日 (月)

「ミッドナイトトラベラー」

 渋谷のシアター・イメージフォーラムでドキュメンタリー映画「ミッドナイトトラベラー」(監督 ハッサン・ファジリ)を観てきました。
 2015年、タリバンから死刑宣告を受けた映像作家が、妻と2人の娘を連れてアフガニスタンから欧州まで5600キロの旅をした模様を3台のスマートフォンで撮影したという異色作。
 故郷を追われ、安住の地を求める難民という存在を私たちは知っていますが、その一人ひとりの背景はよく知らない。また受け入れ先を求める中で、どのような仕打ちを受けるのかということも、よく知らないでしょう。
 この作品はその冷徹な現実を何としても伝えようと、スマホで撮影した映像作家の執念と信念が込められているように思いました。改めて映像が伝える力の大きさを感じるとともに、私たちが所有しているスマホであっても、それが成し得るということに感じ入るものがありました。
 

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2021年9月 7日 (火)

「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」

 ポレポレ東中野で公開中のドキュメンタリー映画「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」(島田陽磨監督)を観てきました。
 1959年から84年にかけて在日朝鮮人とその家族が集団で北朝鮮に帰国した「帰国事業」で、9万3000人が移住したと言われています。作品は熊本県在住の67歳の女性が、1960年に在日朝鮮人の夫ともに海を渡り、離ればなれになった20歳年上の姉との58年ぶりの再会を試みる過程を追ったドキュメンタリーです。
 政治や時代に翻弄され、会えなくなった家族の中には、もちろん再会を望む人もいるけれども、半世紀以上を経て、必ずしもそうではないという悲しい実情もある。日朝関係が改善される道筋ができる日は来るのだろうか。非常に多くのことを考えさせられました。
 この作品は日常的な生活を送る北朝鮮の人々の素顔が映し出されているのも見どころの一つです。
 日本電波ニュース社のディレクターでもある監督の島田陽磨さんは、高野秀行さんや角幡唯介さんら探検ノンフィクションの書き手を生み出した早大探検部出身。知られざる事象を追う探検的好奇心が込められた作品だと思います。是非お勧めです。

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2021年8月28日 (土)

『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

 大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したルポライター、安田峰俊さんの『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(角川書店)を読みました。
 
 一昔前までの外国人労働者と言えば、中国人が多かったですが、経済成長を遂げつつある中国からわざわざ日本に稼ぎに来る旨味はほぼなくなり、現在のその代表格はベトナム人に移っています。
 

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 悪名高い「技能実習生」という就労している彼らの労働実態は、技能などを身に着けることができる仕事ではなく、ほとんどが低賃金での過酷な単純労働です。彼らを中心とする在日外国人問題についての日本の報道について、著者の安田さんは、①彼らを「かわいそう」とみる理想主義的なもの②在日外国人問題についてのデータを集積しただけのレポート③排外主義的なもの 以上の3つに分類できると分析しています。
 
 ステレオタイプの視点では、実態は見えてきません。安田さんは広範囲にわたって当事者たちを直接取材し、彼らの実像を描き出しています。読んで感じるのは「叩き出せ」型の排外主義は論外であるとしても、必ずしも「かわいそう」という枠にははまり切らない実態があるということです。
 
 少子高齢化がますます進んでいく中で、労働力を外国籍の方に依存する状況はますます進んでいくでしょう。共存の道を探るためにも、是非お勧めしたい一冊です。
 
 ちなみにタイトルの『「低度」外国人材』には、日本政府が経済成長等に貢献する高度な能力や資質を持った外国からの人材を「高度外国人材」と呼んでいることに対する皮肉が込められています。

2021年7月17日 (土)

「東京クルド」

 渋谷のシアターイメージフォーラムで公開中の「東京クルド」(日向史有監督)を観てきました。幼少の頃に故郷トルコでの迫害を逃れるために日本にやって来た18歳と19歳の2人のクルド人青年を撮ったドキュメンタリー映画です。https://tokyokurds.jp/

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 難民申請をしても認められず、入管の収容を一時的に解除される「仮放免」処分の状態にある2人。日本で生活していかなくてはいけないのに、合法的に働くことすら認められない状態で悪戦苦闘する彼らの姿を通じて見えて来る日本社会。その排他性には愕然とするしかありません。

 私自身も妻が外国籍なので、これまでに在留許可や永住権の申請のために何度も入国管理局には足を運んでいるのですが、改めて外国人の視点に立つことで、初めて見えて来るものがあります。日向監督は敢えて施設内には足を踏み入れずに撮影することで、入管施設の本質を浮かび上がらせたようにも感じました。

 無期限で密室に閉じ込められ、死んでしまってもその経緯を公表しない日本の入管施設の問題は、スリランカ人女性の死亡事件を受けてようやく報道される機会が多くなって来ました。私は、諸外国の制度や国際条約を検討した上で、日本の入管施設がなぜここまでひどいものになったのか歴史的な背景を多角的に知っていくことが必要だと日頃、思っています。その前提として、映像を通してでも彼らがどのような差別的待遇を受けているかという事実を知ることが不可欠なのではないでしょうか。

 まもなく開催される東京五輪でも「難民選手団」が結成されるそうです。日本は当然、歓迎の意を表するのでしょう。それはそれで良いとしても、その裏で難民を認めようとしない日本の入管行政の現実から目を背けてはいけないと私は思います。

2021年7月11日 (日)

「サイレント 黙認」

 ホラー小説と言えば20年以上前に映画化されて話題になった鈴木光司さんの「リング」ぐらいしか読んだ覚えはないのですが、やはり本というのは、ふだん読まないジャンルを読んでみてこそ新鮮な感覚が味わえるものです。

 12日に刊行される神津凛子さんのサイコ・ホラーミステリー新作「サイレント 黙認」(講談社)は、まさにこの大切なことを思い出させてくれた1冊でした。帯の紹介文には、こんなふうに書かれています。

 建築会社に勤める勝人は、コーヒーショップ店員の華と運命の出会いを果たす。一目で心を奪われた勝人は、彼女との距離を少しずつ縮めていく。ところが、それから勝人は奇妙な子どもの姿を目撃するようになる。自分以外の誰も見えない幻影に苦しめられながらも、華の優しさに救われる勝人。一方、華の弟である星也は、突然様子が変わった姉が気に入らない。華の彼氏は本当に信用できるやつなのか?血のつながらない姉にほのかな恋心を寄せる星也は、親友の葉月とともに、勝人のことも調べだすが…。

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 舞台設定には何の変哲もないですが、その後の展開が独創的。そして何よりもこれから蒸し暑くなる時期に、背筋を冷やしてくれる場面が多い点でもお勧めできます。

 著者の神津さんは歯科衛生専門学校を卒業後に2018年「スイート・マイホーム」で小説現代長編新人賞を受賞。なぜホラー小説の書き手になられたのか、存じませんが、他の作品も読んでみたい気持ちになりました。

甲斐毅彦

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