ブログ報知

スポーツ報知ブログ一覧

2021年1月 7日 (木)

「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」

 「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」(室橋裕和著、辰巳出版)を読み終えました。

 韓流ブームが起きた一昔前にはコリアタウンとして知られた街が、今や、ベトナム人やネパール人をはじめとする「移民」たちが暮らし、飲食店などのビジネスを行う多国籍タウンに発展しています。

 タイに移住するなどしてアジア専門のライター、編集者として活動している著者は、人口の35%が外国人だと言われる新大久保に引っ越して、生活者として取材。彼らはなぜ、ここに住み、何をしようとしているのか。地に足のついた取材で描き出す人間模様は、カオスであり、かつ、味わい深いものです。

Photo

 著者の室橋さんは江戸時代にまで遡り、もともとここは「よそもの」たちが歴史を作ってきた町であることを調べており、この視点も非常に面白いものでした。

 かくいう私の祖父も、大正時代に茨城から新大久保近くの百人町に移り住んだ「よそ者」の一人でした。住居は東京大空襲で焼失し、父の代の時に戦後になって中野に移住したと聞いています。

 行きつけの韓国料理店もある新大久保は、私にとって非常に身近な街なのですが、こんなにも懐の深い街だったとは…。言葉だけでなく真の「多文化共生都市」を考える時、新大久保は欠かせない先駆の街と言えるのではないでしょうか。

 

2020年12月18日 (金)

「オールドタイムズ」

  作家・本城雅人さんの新作「オールドタイムズ」(講談社)を読みました。スポーツ紙記者から作家に転身し、直木賞候補にもなった本城さんの作品はこれまでに、プロ野球のスカウトを主人公にした「スカウト・バトル」(講談社文庫)を楽しく読んだことがあるのですが、こちらの新作は、夕刊紙のエース記者が主人公。
 40代の記者が、長年勤めた会社を早期退職し、ウェブニュース会社の設立メンバーに加わるという話。ですが新規参入のウェブサイト運営がそんなに簡単にいくわけはなく、悪戦苦闘するのですが、ひねり出した方針は、世に溢れる「フェイクニュース」の真相を突き詰めることだったー。
 ネット媒体によって、紙媒体が苦戦を強いられ、ネット上には真偽不明の情報が氾濫するという現在のメディア状況を見事に描いた秀作。一気読みしてしまいました。

Photo

  
 本城さんのこれまでの作品も遡って読みたくなり、手に取ったのは、2018年に文庫化された「トリダシ」(文春文庫)。ニュース至上主義で記者への無茶ぶりを繰り返す名物デスクを主人公にスポーツ新聞の現場を描いた連作短編集です。
 ここで描かれているのは、紛れもなくスポーツ新聞で働いている私たちの日常がベース。小説なのでドラマチックにはなっていますが、どれ一つとっても、スベッていない。もともと業界にいた方が描いたのですからリアリティーがあるのは当然なのですが、登場人物の一人ひとりが、私が知る実在の人物と重なり合ってしまうほどでした。
 登場する記者たちが感じる喜怒哀楽は、私自身がこれまで感じてきたそのもの。ただ、楽しい記憶ばかり振り返ることができるというわけにはいかず、力及ばず他紙にニュースを抜かれた辛い記憶や切ない記憶も蘇り…。それでもやはり読んで良かった。「俺たちは日々、こんなに面白い仕事をしているじゃないか」と初心に返ることができました。

2020年12月 7日 (月)

「老いの落とし穴」

 タレント・作家、遥洋子さんの「老いの落とし穴」(幻冬舎新書)を読みました。ご両親を介護し、看取った著者が、その経験から後悔しない老後の迎え方を考え、問いかけた1冊です。

 必死で働いている時には、自分の老後を考えることなどなかなかないでしょう。それをふと考えさせられる最初の機会は、自分の肉親を見送る時にやって来るのかもしれません。

 私の父親は20年以上前に亡くなってしまったのですが、当時のことを振り返ってみると、遥さんがここに書いたことと自分の経験を突き合わせると、多くのことに合点がいきます。「死ぬ前にはシグナルを出す」、「手放しで医療は信用するな」、「「老後は人生の総決算」、そして「人は最後に本音を残す」。

 人生100年時代になっても、いつかは必ず終わりが来ます。人生の閉じ方について、考える時は来るでしょう。親の最後の姿は、自分に向けられた最後のメッセージと考えるべきなのかもしれません。

Photo

2020年12月 5日 (土)

「新版 絵はがきにされた少年」

 ジャーナリスト、藤原章生さんの「新版 絵はがきにされた少年」(柏艪舎)を読みました。

 開高健ノンフィクション賞受賞作でもあるこの作品は、特派員として駐在した南アフリカをはじめとするアフリカ諸国を自分の足で歩き、五感での体験を基に綴ったオムニバス。収録された11の短編は、どれも珠玉というに相応しい。一つひとつに、ガルシア・マルケスの短編小説を読み終えた後に感じる、何かを問いかけられるような余韻がありました。

Photo

 「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞受賞直後に自殺したカメラマンをテーマにした「あるカメラマンの死」で感じさせられた事実の裏側を知る大切さ。ルワンダ大虐殺を生き延びた老人を取材した「ガブリエル老の孤独」では、単発の国際ニュースだけでは決して見えて来ない深み。植民地時代の元鉱夫を主人公にした「老鉱夫の勲章」では、誰かを勝手に「不幸」と決めつけてしまっている先入観の浅はかさを感じさせられました。

 この本は2005年に出版された本を刷新したものですが、15年経っても作品は色褪せるどころか、価値が増しているように思います。ノンフィクション作品というのは、小説以上に古びていきやすい。それは小説のように古典として残っていくノンフィクションが、ごく一部しかないという事実からも間違いはないでしょう。

 そして何よりも巻末の「あとがきにかえて」には、この一冊を形にしたかった筆者の情熱がほとばしっています。

 わが身を振り返れば、20代の時にケニアとエチオピアの放浪の旅をした私自身もこの大陸に魅せられた一人です。ですが、その体験はあまりにも浅かった。命ある限り、自分の知らない世界をこの目で見てやりたい。そんな気持ちがあふれ出して来そうな一冊でした。

2020年11月30日 (月)

「冬の狩人」

 新宿鮫シリーズで知られる直木賞作家、大沢在昌さんの新作警察小説「冬の狩人」(幻冬舎)を読みました。


 料亭で起きた未解決の殺人事件。ミステリーでありながら、本格的なハードボイルドです。大沢さんの作品を読んだのは、「このミステリーがすごい!」でランク入りした数作を読んで以来なので本当に久しぶりでしたが、天才的な引き込む力は健在でした。

 一気読み、間違いなしでしょう。

Photo

2020年11月26日 (木)

プロ登山家・竹内洋岳さんの新たな挑戦

プロ登山家の竹内洋岳さん=ハニーコミュニケーションズ=が25日、客員教授を務める母校・立正大学(東京都品川区)で開催された「データサイエンス学部」新設の記者会見に出席し、「データ社会の新時代を登山の進化から読み解く」と題してトークセッションを行いました。
 来年4月に熊谷キャンパスに新設されるというこの学部は、ビジネスや世の中を変えるような新しい仕組みを生み出す「価値創造」を目指す学部。なんだか山登りとは関係なさそうですが、さにあらず、なのです。

Img_0531

 
 1924年にエベレスト初登頂を目指して遭難した英国の登山家、ジョージ・マロリーの衣装で登壇した竹内さんは「古臭い衣装と思われがちですが、当時はこのすべてが最先端だったんです」と解説。百年前の1920年代の登山は、当時の最先端の技術を使っていた。ならば、2020年代の登山も、今の最先端テクノロジーを使って登るべきではないか。これが、竹内さんの登山に対する価値観であり、プロ意識であると言って良いでしょう。
 これまでも竹内さんは、カシオ計算機が生み出した登山用腕時計「PROTREK」を愛用。「人間が到達できる最も過酷な環境」である8000メートル峰で使用することにより、カシオの開発担当者の牛山和人さんとともに時計の機能を進化させて来ています。一緒に登壇した牛山さんは「最初のPROTREKを竹内さんに酷評されたことが、(開発の)原動力でした」と振り返っていました。
 トークの中で、司会者から「登山の価値を高め、それを社会にどう結び付けていくか」と問われると、竹内さんは「難しい質問ですね…」と苦笑いしてから、こう答えました。
 「逃げることのできない大きな課題です。(登山や冒険の)先輩方はそこにもがいてきた。ヴァスコ・ダ・ガマがヨーロッパからインドへ航海することで新しい航路が発見されたし、北極や南極を探検することで新たな学術がもたらされた。現代は何ができるのか。それを見つけ出すのが、私の役割だと考えています」
 竹内さんが、思わず正直に「難しい」ともらしたとおり、登山や冒険を「社会に役立たせる」ほど困難なことはないでしょう。
 「なぜ山(エベレスト)に登るか」と問われて「そこに山(エベレスト)があるからだ」と答えたマロリーも、社会的意義よりも「行きたい」という気持ちが大きかったのではないでしょうか。ヨットでの単独太平洋横断に成功した堀江謙一さんも、理由を尋ねられて「行きたいから行ったんですよ、としか言いようがない」と答えていましたが、同じことだと思います。登山や冒険では、社会的な意義は考えない場合のほうが、むしろ自然なのではないでしょうか。
 そう考えると、竹内さんのこの挑戦こそが人類にとっての「未踏峰」なのかもしれません。竹内さんの「山の標高は変えられないが、山の価値を高めることはできる」という言葉を聞いて、そう思いました。

Img_0536

2020年11月25日 (水)

「実像 広島の『ばっちゃん』中本忠子の真実」

  読みたいと思いながら読みそびれていた、昨年出版されたノンフィクション「実像 広島の『ばっちゃん』中本忠子の真実」(秋山千佳著、角川書店)を読み終えました。城山三郎賞の候補作にもなった傑作です。
 中本忠子さんは、約40年にわたって非行少年のみならず、その保護者にまで無償で手料理を提供し、物心ともに支えとなって非行や犯罪から立ち直らせてきた保護司。その献身的な活動はマスコミでも取り上げられ、安倍前首相の昭恵夫人とも交流を持つようになった。「マザー・テレサ」とまで呼ばれ、聖人化された中本さんの活動の動機は何だったのか。著者の秋山さんは取材を進めるにつれ、伝えられていたものとは違う実像が浮かび上がってきました。

Photo

 先入観を排して、無心になって取材対象に当たるということは、ジャーナリズムやノンフィクションの世界での基本姿勢ですが、簡単にできることではありません。本書はこれを実践し、まさに「実像」を浮かび上がらせることに成功しています。
 頑なに過去を語りたがらない「ばっちゃん」。しゃべりたくないことを無理やり喋らせることができるのは権力のみで、ノンフィクション作家やジャーナリストはそうはいきません。秋山さんは粘り強く「ばっちゃん」と接し、家族からも話を聞いていきます。最後は「ばっちゃん」が、過去を知られることを受け入れていくわけですが、それができたのは、取材者の熱意と真摯な態度があったからでしょう。
 すぐれた人物ノンフィクションは、書かれた本人にとっても新たな発見があるものです。本書もきっとその1冊なのではないでしょうか。カポーティ―の「冷血」や民芸運動を起こした思想家・柳宗悦の言葉の引用が、作品をより滋味深いものにしています。

2020年11月20日 (金)

「エンド・オブ・ライフ」

「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年ノンフィクション本大賞」の受賞作「エンド・オブ・ライフ」(佐々涼子著、集英社インターナショナル)を読みました。
 著者の佐々涼子さんの本は、3・11で津波に呑み込まれた日本製紙石巻工場が再生するまでを追った「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」(早川書房)を読み、本物のノンフィクション作家であることは知っていましたが、今回の受賞作は圧巻です。

Photo

  
 テーマは在宅での終末医療。人間の「命の閉じ方」を描いた小説は数多くあるし、その多くは実際の出来事を題材にしているとは思いますが、事実のみで構成された純然たるノンフィクションとなると、やはり読む者に伝わる重みが全く違います。
 主人公となった男性は、京都の訪問診療所で、数百人の終末期患者を看取ってきた看護師。看取りのエキスパートとも言える人物が、すい臓がんになり、余命宣告を受けます。多くの人の終末期を支えて来た人が、患者となり、支えられる側になった時、本人の心はどう揺れ動くのか。そして彼を支える家族は何を思うのか。
 在宅介護を受けていた著者自身の母のことや他の終末期患者のことも織り込みながら進める構成は独特で、ドラマや小説では、描かれることがない現実が伝わってきます。
 6年以上にもわたってこれだけ他者の生死の境目に踏み込んで来れたのは、医療機関や患者たちとの相当の信頼関係が築けたからこそでしょう。大手メディアではなく、一人の書き手だからこそ成し得たことなのかもしれません。
 「死」をテーマにノンフィクションの取材を進める中で、「生病老死」を避けられぬ宿命とする仏教に関心を深めていったという佐々さん。ただ、信仰を深めることまではできないという率直な宗教観にも深く共感しながら読みました。信仰というのは「信じよう」と思ってできるものではないのかもしれません。
 深く心に残るのは、最期を迎えた人が不治の病とどう向き合い、どう立ち向かったか。その姿を通じて、見守る人々の人生にどのような影響を与えたかということ。
 そこに押しつけはありません。人は好きなように、自由に生きていい。そのメッセージは万人の心を揺さぶるものでしょう。ここにノンフィクションが持つ力を実感しました。

2020年11月14日 (土)

「いつの空にも星が出ていた」

 漫画化、ドラマ化された傑作「一瞬の風になれ」で2007年の本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さんの新作「いつの空にも星が出ていた」(講談社)を読みました。

 一つのプロ野球球団を軸に、こんなにも広く、温かく、かつ爽やかに物語を展開できるとは。さすがの筆力は圧巻でした。題材となったベイスターズのファンはもちろんですが、野球に興味がない方が読んでも感動することは請け合いです。

 個人的にはマシンガン打線で日本一になった1998年を思い出させる「パレード」が最も印象に残りました。

Photo

2020年11月11日 (水)

「オンラインでズバリ伝える力」

 ついにオンライン会議向けの自己啓発書まで出る時代になりましたか…。幻冬舎の新刊「オンラインでズバリ伝える力」(佐藤綾子著)は、これからの社会で避けて通れなくなったオンラインでのコミュニケーション技術について説かれた類書のない一冊です。

 「信頼は、画面に映る最初の1秒で決まる」「Zoomでは、0・8倍速で話すと、聞き取りやすい」「名刺交換できないので、肩書を明示する」「顔の表情は歌舞伎役者のつもりで動かす」「大きい声よりも、強弱のある声が心に響く」「1分間のうち32秒、カメラ目線で話すと印象UP」など…。掲載された47のテレワークのコツは、ほとんどが初耳の話です。

Photo

 スポーツの試合後の記者会見なども、今はほとんどがZoom対応となり、私もようやく少し慣れて来たのですが、対面取材に比べれば、どうしても突っ込んだことが聞きにくかったり、不便さを感じているところでした。

 ただコロナ禍の中で広まったオンラインの流れは収束後も変わらないと言われていますし、それならば時代に合ったコミュニケーションスキルを身に着けていくしかないのでしょうね。

 著者は国会議員などのスピーチ指導を行ってきたパフォーマンス心理学の第一人者。一読すれば得るものは大きいと思います。

甲斐毅彦

2021年1月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

最近のトラックバック

見出し、記事、写真の無断転載を禁じます。Copyright © The Hochi Shimbun.