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2018年11月 9日 (金)

本屋大賞ノンフィクション部門賞に「極夜行」

今年新設された「本屋大賞 ノンフィクション部門大賞」は、探検家・ノンフィクション作家、角幡唯介さんの「極夜行」(文芸春秋)が受賞。出版不況で、しかもお金と時間がかかって、どう考えても採算が合わないはずのノンフィクション作品を応援しようという企画ができたこと自体が喜ばしいことですが、第1回の受賞作がまさに大賞に相応しい作品だったことを心から喜びたいと思います。

 
 「極夜行」は、太陽が昇らない北極で4か月間、一匹の犬と行動した角幡さんの体験ノンフィクション。視界が効かぬ中で、あえてGPSを持たず、一頭の犬を相棒に連れてひたすら歩き続けた中で、見えてきたものが何だったのか。圧倒的な構成力と文章力で引き込んでいきます。

Photo

 

 この本を読んだのは、2月に平昌五輪を取材して帰ってからだったのですが、平昌を「極限の寒さ」などとリポートして来た来た自分が無性に恥ずかしくなってしまいました。

 開会式の前に寒波が直撃し、平昌は氷点下15度前後でしたが、本当の極地では、これはだいぶ暖かい状態らしい。角幡さんによれば、身体に異常をきたす恐れを感じる寒さは氷点下30度を下回った時だという。しかも、容赦のないブリザードが吹き荒れているとなると体感温度は想像を絶する。いくら平昌の風が強いといったところで、比較にならないでしょう。

 「空白の五マイル」「アグルーカの行方」などで数々のノンフィクション賞を受賞して来た角幡さんの著書は、記者時代に書いた「川の吐息、海のため息―ルポ黒部川ダム排砂」(桂書房)を含めて全部読ませて頂いています。自らの体を張った体験を活字で表現して行くスタイルは一貫していて、聞き書きルポの「漂流」(新潮社)でさえも、自らも漁船に乗り込んで取材対象の追体験しています。

 2016年夏、角幡さんが自らの探検論などをまとめた「旅人の表現術」(集英社)を刊行した時に、著者インタビューをさせて頂きました。現代では残された地球上の未知の地帯が、ほぼなくなっている中で「探検家」であり続けることについて、こう語っていました。

 「グーグルアースを見れば、僕が行ったツアンポー峡谷(「空白の五マイル」の舞台)の滝の位置も分かってしまう時代。地理的な空白には、もうあまり関心がないんです。行ったら面白いとは思いますが、新しくて時代を切り開くものにはならない気がするんですよ。現代の探検というのは、地理上の空白ではなく、社会や時代のシステムの外側を目指す行為。自分で『新しい地図』を見つけ出すことだと思います」

 受賞作の「極夜行」は、まさにその実践に他なりません。太陽が地平線の下に沈み、長い漆黒の夜が延々と続く冬の北極。すでに多くの探検家が足跡を残した地ではありますが、そこにはまさに角幡さんが見つけ出した「新しい地図」があったのです。

 行為者(探検家)として真似ができないことをしているのはもちろんのこと、それを表現者(ノンフィクション作家)として読ませる力も卓越しているのが、角幡さんの真骨頂です。しょうもないと思えるような話までも織り込んで、さらけ出してしまう奔放さも角幡さんの持ち味で、これがまた臨場感とリアリティーを強める要素になっています。極地にいても安倍政権を皮肉ることを忘れないところがまた何とも言えません。今後もノンフィクション史に残っていく金字塔的作品です。

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コメント

 石山さん、ありがとうございます!

 角幡さんはノンフィクションだけでなく、町田康さんの作品をはじめ小説もすごくたくさん読んでいる方ですから、いずれは小説にも挑戦して頂きたいですね。自身の冒険・探検が反映された大作をいずれは書かれるかもしれませんね。

 イワナ様
 ご指摘ありがとうございます。お恥ずかしい限りです。修正しておきました。

 ヒゲ星人様、ありがとうございます。

 新聞も読者の皆様に熱量を感じて頂けるものにしていきたいです。

 赤字修正しておきました。

甲斐様
石山と申します。ブログ読ませていただきました。
私も角幡さんのファンで、「川の吐息〜」以外は全て読んでいます。
角幡さんの作品について、私は行為(冒険)そのものより、その文章に魅力を感じます。命を賭する行為は、ストイックを越えてもはや宗教的な崇高ささえ感じますが、書かれる文章には(宗教的事柄に伴う)辛気臭さなど微塵もなく、読み手をその場に誘う圧倒的な筆力に脱帽させられます。
もちろん、冒険なくして角幡さんのこれまでの作品は存在し得ないのですが、著名なノンフィクション作家の多くの方々が小説を書かれるように、角幡さんにもいずれ直木賞を受賞するような渾身の冒険小説を書いてほしいと願うばかりです。

>身体に以上をきたす恐れを感じる寒さは氷点下30度を下回った時だという。
「以上」は「異常」のまちがい?
>僕が行った津アンポー峡谷
「津アンポー」は「ツアンポー」ですね。
あら探しのようなことをしてしまいました。すみません。

ブログ子の筆者への熱量が伝わってきます。読んでみたい、と思わせました。「身体に以上をきたす」が以上ではなく、異状または異常ですね。

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甲斐毅彦

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