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2019年5月

2019年5月22日 (水)

「竜之介先生、走る!」

 動物を専門とするノンフィクション作家、片野ゆかさんの新刊「竜之介先生、走る」(絵・高倉陽樹、ポプラ社)を読みました。2016年4月に発生した熊本地震で、ペットと一緒に生活できる避難所がない中で、自身の動物病院を、それまでに前例のなかった「ペット同伴避難所」として開放し、多くのペットと買い主を救った獣医師、徳田竜之介さんを描いたノンフィクションです。

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  一定数の国民が犬や猫を家族として暮らしている中で、2011年3月11日の東日本大震災の時に課題の一つとして挙がったのが「ペット防災」でした。被災地に置き去りにされた被災ペットの存在が大きな社会問題となり、動物保護への社会意識が高まる転機となりました。

 ただし、課題として多くの人が認識するようになったとはいえ、実際に解決に向けて行動できる人というのは、本当にごくわずかでしょう。3・11の5年後に発生した熊本地震の時に、解決に向けて尽力したのが「竜之介先生」でした。

 本書は児童書なのですが、筆者が第一線でのノンフィクションの書き手とあって、例えば手術の様子の描写ひとつとっても、細部まで描かれており、綿密な取材の成果であることが伝わって来て、大人にとっても十分に読み応えのある作品になっています。

 昨年、片野さんが、犬の平成史とも言える「平成犬バカ編集部」(集英社)を出版された時に、インタビューさせて頂いたのですが、強く印象に残った言葉があります。


 「災害時にどう動物たちを保護するか。それを考えられる社会であるならば、子ども、高齢者、障がい者という]弱者が見捨てられることはない」

 今回の新刊では、その言葉の意味を再確認し、動物のために実際に行動している人物がいるということに感動しました。小さいお子さんがいる方には是非親子でお勧めしたい一冊。きっと温かい気持ちになれると思います。

2019年5月16日 (木)

「世にも美しき数学者たちの日常」

 幻冬舎の新刊「世にも美しき数学者たちの日常」(二宮敦人著)を読みました。世の中の役に立っているのかどうかさえ、我々門外漢には良く分からない数学を日々研究している人たちは、どれだけ「変わり者」なのでしょうか。16万部のベストセラーになった「最後の秘境 東京藝大」(新潮社)の著者、二宮敦人さんによる「誰でも行けるけど、誰もよく知らない秘境」の探検第2弾です。

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 上野動物園の横にある東京藝大の「秘境」ぶりにも驚かされましたが、数学者たちの日常も、私たちの想像が及ばない世界でした。「問題を解くことではなく、作ることが大事」「数学は芸術に近いかもしれない」と主張する学者さんや、数学教師とお笑い芸人の二刀流、タカタ先生など、とっても不思議な人物が続々と登場します。

 読んで分かったのは、中学や高校の時に無理やり答えを解かされていた「数学」は本当の数学ではないということ。もう一つは、数学は主観の入り込む余地がない学問だというのが誤りだったということです。言語でもあり、芸術でもあり、エンタメでもある数学が「客観的」であるはずがありません。また、数学者にして仏教信者だった岡潔(故人)について言及されている点も興味深かったです。

 著者の二宮さんは「東京藝大」を出版された時に、私が秋葉原でインタビューさせて頂いたのですが、一橋大経済学出身の文系インテリなのに、理系的なセンスがある方だな、という印象を持ちました。「高校時代の愛読書は何ですか?」とお尋ねしたところ「うーん、ブルーバックスとかですかね」と、講談社が出版している自然科学の新書シリーズを挙げられたのをよく覚えています。そういえばフィクションの著書には「最後の医者」シリーズというのも出されています。  

 本書の中で登場する編集者の袖山さんは、エッセイストの宮田珠己さんの傑作「晴れた日は巨大仏を見に」の中でも登場し、いじられ役として作品を引き立てた名編集者。数学という知的迷宮においても、その役割が果たせるのですから、もう脱帽です。

2019年5月14日 (火)

映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」

 吉祥寺のアップリンクで米映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(ロブ・ライナー監督)を観てきました。2003年、ブッシュ大統領が強硬したイラク戦争の裏側を暴こうとした記者の奮闘を描いた実話に基づく作品です。

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 9・11の悲劇の2年後、ブッシュ大統領が強行したのがバグダッド爆撃に始まるイラク侵攻。その口実となったのが、イラクが保有しているとされた「大量破壊兵器」でした。主要メディアが、この戦争を支持する中で、ナイト・リッダー社の記者たちは、「大量破壊兵器」の有無ではなく、政府方針が「イラク侵攻」ありきだった事実をつかみ、報道に踏み切ります。

 時代が変わってトランプ政権となった今、米国では政府によるメディア攻撃は、ブッシュ政権時代以上に強まっているように思います。 もちろん、極東のこの国も。北方領土返還をめぐり「戦争をしないとどうしようもなくないか」などと口走る国会議員が存在するのは恐るべきことですが、このような映画が好評を得ているのは救いのように思えます。

2019年5月 8日 (水)

「スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄」

 ノンフィクションライター、澤宮優さんの文庫本新刊「スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄」(集英社文庫)を読みました。


 江夏豊、掛布雅之、野茂英雄、福留孝介…。野球に興味がない人でも、名前は知っている名選手たちを発掘し、次々に獲得して世に送り出した伝説的スカウトの評伝。一人のスカウトを追う視点で描かれた、遠くなりゆく「昭和球界史」と言える一冊です。

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  日中戦争の最中の1939年に明大に進学し、卒業後は陸軍に入隊して、乗っていた船が東シナ海で潜水艦により撃沈された経験を持つ河西は、南海ホークスや大阪タイガースで外野手として活躍。盗塁王になるなどの実績がありましたが、本領を発揮したのは、指導者を経てスカウトに転進した引退後でした。


 食いついたら離れないことから「スッポンの河さん」と呼ばれたが、「仏の河さん」とも呼ばれた。本書では、スッポンにして仏でもあった河西の人間性が選手たちとのエピソードを交えてつづられています。感銘を受けたのは、昭和という時代にあって、河西が自分の息子ほどの若い選手たちに対する態度が「上から目線」ではなく、常に対等に接していたという点です。スカウト歴40年で入団させた選手は約300人に及ぶといいます。


 昔のスカウトと言えば、強引なイメージも付きまといますが、河西が大切にしたのは「誠意」だったと言います。駆け引きが付きものの世界で「誠意」を貫くのは容易なことではなく、人柄があってこそなし得たことなのかもしれません。


 河西がスカウトだった時代に比べれば、インターネットなどでの情報化が進み、名選手情報を均一化して来ています。河西のように目が効くスカウトが、隠れた逸材を発掘して来るというケースは減ってきているようです。そんな背景を踏まえつつ、本書の最終章ではスカウトの現況に触れ、金足農から日本ハムに入った吉田輝星や大阪桐蔭から中日に進んだ根尾昂を河西だったらどう見るか、という視点で結ばれています。

 AIの時代に突入して、どんなに情報化が進んでも、最終的に「人を見抜く目」というのは人間の目に他ならない。一人のプロ野球スカウトの人生を通じてここで描かれたことは、人間が生きる社会の中で、普遍的なテーマだと言えるのではないでしょうか。

甲斐毅彦

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