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2019年6月28日 (金)

「狼の義 新 犬養木堂伝」

 満州国の建国と承認に反対し、首相在任中に五・一五事件(1932年)で暗殺された犬養毅の評伝「狼の義 新犬養木堂伝」(林新・堀川惠子著、角川書店)を読み終えました。

 立憲政治の実現を目指し、護憲運動の中心的政党政治家であった犬養は、軍部に疎まれ、総理官邸に乱入して来た青年将校ら拳銃を突き付けられ、打たれる直前に「話せば分かる」と諭したというのは有名な話です。本書は事件当時、貴族院議員だった犬養の「懐刀」、古島一雄をもう一人の主人公に置くことで、新事実を交えて、新たな犬養像を浮かび上がらせた力作です。

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 第一章は、21歳の犬養が、東京の郵便報知新聞(後の報知新聞)の記者として、西南戦争に従軍し屍臭の中を歩いているところから始まります。かつて報知新聞に「戦場ジャーナリスト」が存在していたということも驚きですが、それが後に首相となる犬養であったということに興奮し、そのまま引き込まれていきました。

 500ページ近くに及ぶ骨太な1冊を読み終えて感じたのは、現代政治を憂うのならば、私たちはもっと犬養という人物を知るべきではないか、ということでした。憲法とは? 政党政治とは? 立憲主義とは? これらの問いかけは明治時代の藩閥政治から脱却し、理想を実現しようとした犬養なくしては語れないような気すらして来ました。

 本書を着想した林新さんはNHKの番組制作者として、太平洋戦争中のビルマ・インパールをテーマにしたドキュメンタリーなど作成して来たドキュメンタリストです。本書を半分ぐらいまで執筆されたところでご逝去され、後半は、林さんの意志を引き継いだ妻の堀川さんが書き上げたというのが出版の経緯だそうです。

 堀川さんは広島テレビ放送の記者として県警、司法、県政などを担当した後にフリージャーナリストに転身。講談社ノンフィクション賞を受賞した「死刑の基準―『永山基準』が遺したもの」や大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した「原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年」などの第一級のノンフィクション作品を世に送り出している実力者です。

 2016年には「原爆供養塔」の著者インタビューを受けて頂いたことがありました。足が動かなくなるまで続けるという果敢な取材活動をお話頂いた中で、夫である林さんの取材ぶりについて触れられたことが印象に残っています。

 ノンフィクション作品というのは、事実を掴むために取材に出向く経緯も作品の中で描くのが、むしろ普通ですが、林さんはそれを作品の中には書かない。ただ掴んだ事実のみを書いていく。そこに堀川さんは「しびれました」とお話していました。

 「狼の義」は読み物としての技巧として架空の人物も登場させており、純然たるノンフィクションではなく、小説的な手法を用いた評伝です。林さんの意志を引き継いだ堀川さんにとっては新たな分野への挑戦的取り組みだったのではないでしょうか。

 分野は変わっても、一行一行には、確かな取材に裏打ちされた熱量が溢れているように感じました。

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甲斐毅彦

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