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2019年8月

2019年8月29日 (木)

「八九六四『天安門事件』は再び起きるか」

 今年の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作となったルポライター、安田峰俊さんの「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」(角川書店)を読みました。

 今から30年前の1989年6月4日、民主化を求める学生らに向かって軍が発砲し、多くの死傷者が出た天安門事件。この作品は事件に直接関わった当時の学生を始め、多くの関係者にインタビューすることにより、語り継がれる中国の民主化運動弾圧事件の実態に迫ったノンフィクションです。

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 事件当時、大学1年生になったばかりだった私にとっても、天安門事件は記憶に新しく、ソ連でペレストロイカが始まり、東西冷戦が終結へと向かう流れの中で起きた事件だととらえていました。

 卓越した中国語能力と取材力の合わせ技で為しえたこの力作を読んで改めて認識できたことは、天安門事件は当時のエリート層が起こした事件であって、市民一般の声を反映した運動だったとは言えないということです。

 30年前を振り返る彼らからは非常に冷めており、とても美化できる運動ではなかったということが分かってきます。興味深いのは、彼らの回想が、日本の全共闘世代のそれと重なり合うという点でした。筆者の安田さんが終章で引き合いに出したのは「西遊記」に登場する孫悟空。これがストンと腑に落ちるというか、非常に効果的だと感じました。

 本書を読めば、30年前の事件を通じて現在の中国を知ることができると思います。そして、現在香港で激しい反政府デモが起きている背景にあるものも見えてくるでしょう。

 終章で安田さんは、今後の数十年、中国で「まともに民主化が実現する可能性はほぼゼロに近いだろう」とつづっています。隣国で暮らす者として、私たちは中国との友好を深め、協調していくべきだと信じていますが、その第一歩として、まずは中国という国の現実を見極めていくことが大切なのだと思います。

2019年8月 1日 (木)

団地と移民 課題最先端「空間」の闘い

 敬愛するジャーナリスト、安田浩一さんの「団地と移民 課題最先端『空間』の闘い」(角川書店)を読みました。


 安田さんは、在日韓国・朝鮮人の生活地域で排外デモを行っている「ネット右翼」の実態を綿密な取材で明らかにしたルポ「ネットと愛国」で講談社ノンフィクション賞を受賞するなど、マスメディアが切り込みにくいテーマに取り組み、高い評価を得てきたジャーナリストです。本書のテーマである「団地」も、これまで安田さんが追ってきたテーマの延長線上にあり、さすがの着眼点だと思いました。

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 団地は戦後の住宅難を解決するために、国策的に全国に広がった住宅。高度成長期に広まった「風呂付き住宅」には夢と希望が詰まっていたのです。


 「転勤族」の家庭で育った安田さん自身も、団地で育ちました。ルポは安田さんが子どもの頃に育った東京・町田市の団地を再訪するところから始まります。40年以上を経て、もっとも顕著に感じられた変化は高齢化。今や、孤独死が起きてしまう都会の限界集落と化しています。

 そこに生活の場を求めて、コミュニティーを形成しているのが中国やブラジルなどからの移住者たち。文化の違いから起こる住民間のトラブルは少なくありません。さらに、そこには住民ではない排外主義者たちが群がってくる…。

 安田さんは憎悪が巻き起こる背景を具に取材しながらも、現状を憂い、相互理解を進めようと尽力する善意にも光を当てています。

 文化や民族、価値観が違うものが、どうすれば共生していけるのか。これは4月1日に改正入管法が施行され、外国人労働者の受け入れに拍車をかけている日本社会が考えていかなくてはいけない最も大きな課題なのではないでしょうか。

 あとがきの中で安田さんは団地を「多文化共生社会の最前線」と書いています。他者とともに生きていく私たちにとって学ぶべきことの多い一冊です。

甲斐毅彦

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