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2019年11月14日 (木)

「探検家とペネロペちゃん」

 探検家・ノンフィクション作家、角幡唯介さんの子育てエッセイ「探検家とペネロペちゃん」(幻冬舎)を読みました。

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 角幡さんの愛娘ちゃんと私の娘は同じ2013年生まれで、誕生日は5か月違い。なのでこのエッセイは「小説幻冬」で連載されている頃から注目して時折、書店で立ち読みしていたわけですが、こうして単行本として読んで、初めてその核心をつかむことができました。それは本の帯に書かれている、このフレーズに集約されています。
 

「子どもは、極夜より面白い。」

 一応は大学山岳部出身で、本多勝一の冒険論などを読んで学生時代を過ごしながらも、結局は会社員になった私にとって、角幡さんは、自分にはできなかったことを実行して来た探検家です。未踏のチベット秘境の踏査、ヒマラヤでの雪男さがし、北極での1600キロ徒歩行、そしてこれらの探検活動の集大成とも言える「極夜行」。

 これらの探検活動をスポンサーに頼らず、独力で成し遂げてきたということは、登山やら探検・冒険やらを関心事とする者にとっては、驚嘆すべきことです。その角幡さん自身が「極夜よりも、子どもが面白い」というのだから、探検ができなかった者が、胸を射抜かれたといっても大げさではないでしょう。心の中で叫びました。「俺は極夜には行けない。でも俺の家にもペネロペがいるではないか!」と。

 優れた名作小説を読んでいると「自分のことが書かれている」という錯覚に陥るものですが、我が家の「ペネロペ」と日々接している私にとってこのエッセイにはまさにその感覚がありました。子を持つまでは、子どもの写真を年賀状に貼り付けてくる人々の気が知れなかったのに、今ではそれが当然のことと思えている。親バカとは、探検家でも抗えぬ自然の摂理のようなものなのでしょう。

 その親バカぶりは、一読者に過ぎぬはずの私まで恥ずかしく感じてしまう話が満載。恐らく無類のサービス精神によるものでしょうが、角幡さんは読者に「そこまでせんでよろしい」と感じさせるほど、ご自分をさらけ出す癖があります。「空白の五マイル」の書き出しもそうでしたし、「極夜行」で物議を醸したキャバクラの喩えもそうでしょう。子育てエッセイにも関わらず、一定の読者はドン引きするに違いない、エロ動画の話なんかもこの本には出てくるわけですが、これもキレイゴトばかりではないリアリティーを感じさせる大事な要素だと私は思っています。

 感銘を受けずにいられないのは、本の面白さはさることながら、この本の出版を許した奥さまの寛容なる精神です。「ペネロペちゃん」が晴れてゴリラの研究者として、その名を馳せた日に、再びこのエッセイは脚光を浴びることでしょう。
 子育て本では、一貫したヒューマニズムの精神で、子どもたちへの信頼を説いた松田道雄の「育児の百科」(岩波文庫)以来の名著だと思います。

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甲斐毅彦

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