「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」
ノンフィクションの新刊「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」(吉田千亜、岩波書店)を読みました。
原発が爆発し、死の危険が迫る中で、地震・津波の被災者の救助、避難誘導を行い、さらには原発構内での給水や消火にあたった地元の消防士たちのドキュメントです。
筆者の吉田千亜さんは、当時の消防士66人を取材。その数々の人名が次々と登場するので、最初は面食らってしまったのですが、それは、ここに書かれていることの真実性を高めるものだということにすぐ気が付きました。2、3人に話を聞いて組み立てたようなものではないのです。
66人から話を聞いて、整合性が合うように構成していくのは簡単なことではなかったと思います。取材記者という立場からもう一点感じたのは、一人ひとりの年齢と役職をすべてきっちり入れていることの誠実さです。ノンフィクションは具体性を追求してこそ、説得力が生まれるのですが、その点へのプロの取材者としての矜持を感じました。
原発事故後に報道でクローズアップされ、称賛されたのは爆発した3号機にヘリで水を投下した陸自や東京消防庁のハイパーレスキュー隊でした。私自身も水を投下した自衛官をインタビューするために木更津基地へ行きました。
ですが、震災発生直後から命がけで活動していた双葉消防本部はほとんど報道されていなかったように思います。吉田さんによれば「双葉消防は何やってんの?」と咎めるように言われた職員もいたそうです。
消防士一人ひとりが「英雄」として祭り上げられることを望んでいるわけではなく、彼らが自分から語ることはこれまでもなかったと思います。ただ、それぞれの消防士が守るべき家族を抱えながら「特攻」のようなつもりで、任務に当たっていたということは、取材者が掘り起こして世に示さなければ永遠に知られることがなかったかもしれません。
緊急事態の中で人の命を救うというのは、どういうことなのか。今こそ一人でも多くの方にお勧めしたい素晴らしい作品でした。
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