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ついにオンライン会議向けの自己啓発書まで出る時代になりましたか…。幻冬舎の新刊「オンラインでズバリ伝える力」(佐藤綾子著)は、これからの社会で避けて通れなくなったオンラインでのコミュニケーション技術について説かれた類書のない一冊です。
「信頼は、画面に映る最初の1秒で決まる」「Zoomでは、0・8倍速で話すと、聞き取りやすい」「名刺交換できないので、肩書を明示する」「顔の表情は歌舞伎役者のつもりで動かす」「大きい声よりも、強弱のある声が心に響く」「1分間のうち32秒、カメラ目線で話すと印象UP」など…。掲載された47のテレワークのコツは、ほとんどが初耳の話です。
スポーツの試合後の記者会見なども、今はほとんどがZoom対応となり、私もようやく少し慣れて来たのですが、対面取材に比べれば、どうしても突っ込んだことが聞きにくかったり、不便さを感じているところでした。
ただコロナ禍の中で広まったオンラインの流れは収束後も変わらないと言われていますし、それならば時代に合ったコミュニケーションスキルを身に着けていくしかないのでしょうね。
著者は国会議員などのスピーチ指導を行ってきたパフォーマンス心理学の第一人者。一読すれば得るものは大きいと思います。
探検家・作家の角幡唯介さんの最新刊「そこにある山 結婚と冒険について」(中央公論新社)を読みました。これまでの自身の冒険的探検を振り返りつつ「人はなぜ山に登るのか、なぜ冒険(探検)をするのか」を論理的、哲学的に考察した思索的エッセイです。
もしこの本が読者にとって初めて手に取る角幡作品であるならば、恐らく抽象論に終始した意味不明の一冊になってしまうでしょう。この本は太陽が昇らない北極を探検した代表作「極夜行」などを読み、その唯一無二の世界を覗き見た上で読んだほうが良い。というか、そうするべきでしょう。「極夜行」を読んだ上でなお「それでもなぜこんなことをするのだろう」と沸き起こる疑問に、答えた作品と言えると思います。
「なぜ山に登るのか」。ジョージ・マロリーがエベレスト初登頂を目指した時代から繰り返されるこの問を角幡さん自身も繰り返し受けてきたわけですが「どう答えてもウソくさくなる」と言っています。マロリーが「そこに山(エベレストを指す)があるから」と答えたのは、恐らく投げやりだったはずで、明確になど答えようがないのでしょう。太平洋をヨットで単独横断した堀江謙一さんもやはり同じで「わたりたいから、わたったんですよ、としか言いようがない」と答えているのを覚えています。
明確な答えがないこの問いかけを主題とした論考は、私が大学山岳部にいた1990年代ぐらいまでは、京大探検部の創設者でもあるジャーナリスト・本多勝一さんによる冒険論がスタンダードでした。未踏峰、前人未到だからこそ、その地に駆り立てられる、という捉え方です。
ただ、地理上の未踏地帯というのは地球上には、ほとんど残されてなく、あるとしてもグーグルアースでその態様を知り得る時代になってしまいました。それでも探検を求めるならば、「地理上」ではなく、人間が作り上げた「システム」から脱することだというのが、角幡さんの捉え方だと理解しています。
それならば本多さんの冒険論を刷新する必要があり、この本での考察は、その試みでしょう。ハイデガーや中動態という聞きなれない概念など難解なものを引っ張り出しているのは、探検が「前人未到」という分かりやすいもので語れなくなった以上、必然的であるようにも思います。
本書は、探検家である角幡さんが「なぜ結婚をしたのか」という「愚問」への答えを探すことが端緒となっています。結論を言えば「結婚とは事態である」と。うーむ、「事態」ですか…。本書を読むと角幡さんの奥様も「何よ、それ」という感じのようですが、これが腑に落ちるようになるのは、私も少し時間がかかりそうです。
もしかしたら角幡さんは時代を先取りしすぎているのかもしれない。いずれは結婚披露宴などでも「この度は、このような事態となり…」と挨拶するのが通例となる時代が来るような気もします(来ないか)。
私なりの理解では、自力による厳しい修行に取り組んでいた禅僧がある日、自力ではどうにもならない大きな力によって己が動かされていることを悟る。そんな感覚に少し近いような気も…。角幡さんが切り開く探険思想の世界は、これ自体が「脱システム」なのでしょう。
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