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2020年12月

2020年12月18日 (金)

「オールドタイムズ」

  作家・本城雅人さんの新作「オールドタイムズ」(講談社)を読みました。スポーツ紙記者から作家に転身し、直木賞候補にもなった本城さんの作品はこれまでに、プロ野球のスカウトを主人公にした「スカウト・バトル」(講談社文庫)を楽しく読んだことがあるのですが、こちらの新作は、夕刊紙のエース記者が主人公。
 40代の記者が、長年勤めた会社を早期退職し、ウェブニュース会社の設立メンバーに加わるという話。ですが新規参入のウェブサイト運営がそんなに簡単にいくわけはなく、悪戦苦闘するのですが、ひねり出した方針は、世に溢れる「フェイクニュース」の真相を突き詰めることだったー。
 ネット媒体によって、紙媒体が苦戦を強いられ、ネット上には真偽不明の情報が氾濫するという現在のメディア状況を見事に描いた秀作。一気読みしてしまいました。

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 本城さんのこれまでの作品も遡って読みたくなり、手に取ったのは、2018年に文庫化された「トリダシ」(文春文庫)。ニュース至上主義で記者への無茶ぶりを繰り返す名物デスクを主人公にスポーツ新聞の現場を描いた連作短編集です。
 ここで描かれているのは、紛れもなくスポーツ新聞で働いている私たちの日常がベース。小説なのでドラマチックにはなっていますが、どれ一つとっても、スベッていない。もともと業界にいた方が描いたのですからリアリティーがあるのは当然なのですが、登場人物の一人ひとりが、私が知る実在の人物と重なり合ってしまうほどでした。
 登場する記者たちが感じる喜怒哀楽は、私自身がこれまで感じてきたそのもの。ただ、楽しい記憶ばかり振り返ることができるというわけにはいかず、力及ばず他紙にニュースを抜かれた辛い記憶や切ない記憶も蘇り…。それでもやはり読んで良かった。「俺たちは日々、こんなに面白い仕事をしているじゃないか」と初心に返ることができました。

2020年12月 7日 (月)

「老いの落とし穴」

 タレント・作家、遥洋子さんの「老いの落とし穴」(幻冬舎新書)を読みました。ご両親を介護し、看取った著者が、その経験から後悔しない老後の迎え方を考え、問いかけた1冊です。

 必死で働いている時には、自分の老後を考えることなどなかなかないでしょう。それをふと考えさせられる最初の機会は、自分の肉親を見送る時にやって来るのかもしれません。

 私の父親は20年以上前に亡くなってしまったのですが、当時のことを振り返ってみると、遥さんがここに書いたことと自分の経験を突き合わせると、多くのことに合点がいきます。「死ぬ前にはシグナルを出す」、「手放しで医療は信用するな」、「「老後は人生の総決算」、そして「人は最後に本音を残す」。

 人生100年時代になっても、いつかは必ず終わりが来ます。人生の閉じ方について、考える時は来るでしょう。親の最後の姿は、自分に向けられた最後のメッセージと考えるべきなのかもしれません。

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2020年12月 5日 (土)

「新版 絵はがきにされた少年」

 ジャーナリスト、藤原章生さんの「新版 絵はがきにされた少年」(柏艪舎)を読みました。

 開高健ノンフィクション賞受賞作でもあるこの作品は、特派員として駐在した南アフリカをはじめとするアフリカ諸国を自分の足で歩き、五感での体験を基に綴ったオムニバス。収録された11の短編は、どれも珠玉というに相応しい。一つひとつに、ガルシア・マルケスの短編小説を読み終えた後に感じる、何かを問いかけられるような余韻がありました。

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 「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞受賞直後に自殺したカメラマンをテーマにした「あるカメラマンの死」で感じさせられた事実の裏側を知る大切さ。ルワンダ大虐殺を生き延びた老人を取材した「ガブリエル老の孤独」では、単発の国際ニュースだけでは決して見えて来ない深み。植民地時代の元鉱夫を主人公にした「老鉱夫の勲章」では、誰かを勝手に「不幸」と決めつけてしまっている先入観の浅はかさを感じさせられました。

 この本は2005年に出版された本を刷新したものですが、15年経っても作品は色褪せるどころか、価値が増しているように思います。ノンフィクション作品というのは、小説以上に古びていきやすい。それは小説のように古典として残っていくノンフィクションが、ごく一部しかないという事実からも間違いはないでしょう。

 そして何よりも巻末の「あとがきにかえて」には、この一冊を形にしたかった筆者の情熱がほとばしっています。

 わが身を振り返れば、20代の時にケニアとエチオピアの放浪の旅をした私自身もこの大陸に魅せられた一人です。ですが、その体験はあまりにも浅かった。命ある限り、自分の知らない世界をこの目で見てやりたい。そんな気持ちがあふれ出して来そうな一冊でした。

甲斐毅彦

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