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タレント・作家、遥洋子さんの「老いの落とし穴」(幻冬舎新書)を読みました。ご両親を介護し、看取った著者が、その経験から後悔しない老後の迎え方を考え、問いかけた1冊です。
必死で働いている時には、自分の老後を考えることなどなかなかないでしょう。それをふと考えさせられる最初の機会は、自分の肉親を見送る時にやって来るのかもしれません。
私の父親は20年以上前に亡くなってしまったのですが、当時のことを振り返ってみると、遥さんがここに書いたことと自分の経験を突き合わせると、多くのことに合点がいきます。「死ぬ前にはシグナルを出す」、「手放しで医療は信用するな」、「「老後は人生の総決算」、そして「人は最後に本音を残す」。
人生100年時代になっても、いつかは必ず終わりが来ます。人生の閉じ方について、考える時は来るでしょう。親の最後の姿は、自分に向けられた最後のメッセージと考えるべきなのかもしれません。
ジャーナリスト、藤原章生さんの「新版 絵はがきにされた少年」(柏艪舎)を読みました。
開高健ノンフィクション賞受賞作でもあるこの作品は、特派員として駐在した南アフリカをはじめとするアフリカ諸国を自分の足で歩き、五感での体験を基に綴ったオムニバス。収録された11の短編は、どれも珠玉というに相応しい。一つひとつに、ガルシア・マルケスの短編小説を読み終えた後に感じる、何かを問いかけられるような余韻がありました。
「ハゲワシと少女」でピュリッツァー賞受賞直後に自殺したカメラマンをテーマにした「あるカメラマンの死」で感じさせられた事実の裏側を知る大切さ。ルワンダ大虐殺を生き延びた老人を取材した「ガブリエル老の孤独」では、単発の国際ニュースだけでは決して見えて来ない深み。植民地時代の元鉱夫を主人公にした「老鉱夫の勲章」では、誰かを勝手に「不幸」と決めつけてしまっている先入観の浅はかさを感じさせられました。
この本は2005年に出版された本を刷新したものですが、15年経っても作品は色褪せるどころか、価値が増しているように思います。ノンフィクション作品というのは、小説以上に古びていきやすい。それは小説のように古典として残っていくノンフィクションが、ごく一部しかないという事実からも間違いはないでしょう。
そして何よりも巻末の「あとがきにかえて」には、この一冊を形にしたかった筆者の情熱がほとばしっています。
わが身を振り返れば、20代の時にケニアとエチオピアの放浪の旅をした私自身もこの大陸に魅せられた一人です。ですが、その体験はあまりにも浅かった。命ある限り、自分の知らない世界をこの目で見てやりたい。そんな気持ちがあふれ出して来そうな一冊でした。
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