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2021年6月

2021年6月29日 (火)

「小売の未来」

 未だにいつ収束するかも分からない新型コロナウイルスによるパンデミックのせいで、日常の買い物だけでもめっきりオンラインストアの利用する回数が増えました。

 私はどちらかというと、商品は実際に自分の手にとってみないと納得できないタイプだったので、オンラインでの買い物には抵抗があったのですが、もうそうも言っていられなくなりました。使っているうちに、何よりも「ポチ」で買えてしまう手軽さ、それだけでなくポイントが加算されるというメリットもあり、いつのまにか買い物の主流になってしまいました。

 これは私が世界的な流れの中に呑み込まれているということに過ぎず、特殊なことではないでしょう。こうなってくると門外漢でも「リアル店舗」がどうすれば生き残っていけるのか、という素朴な疑問が浮かんできます。業績が低迷する量販店は次々と閉店している現実もあり、気になるところです。そんな思いから手に取ったのが、 プレジデント社の最新刊「小売の未来」(ダグ・スティーブンス著、斎藤栄一郎訳)です。

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 著者は世界的に知られる小売コンサルタント。人口動態、科学技術、経済、消費者動向などを踏まえた予測はウォルマートやグーグルなどの世界的に知られたブランドに影響を与え続けているそうです。その視点はとにかく多角的、立体的であり、薄っぺらいハウツー本とは一線を画するものでした。特に「パンデミック後も消費者が抱いている10の問いかけ」は圧巻。これがプロによる分析か、と唸ってしまうほどです。

 本書には各章の冒頭にシェイクスピア、ゴッホ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどによる格言が添えられています。これは説かれていることが「小売業」という枠を超えて、広く応用できるという著者の自信の表れでしょう。小売業に限らず、ポスト・コロナに向けて、あらゆるビジネスに取り組んで行く方々にとって得るものがある名著だと思います。

2021年6月25日 (金)

「十六歳のモーツァルト」

ノンフィクションを読んで思わず落涙したのは、いつ以来のことだろうか。KADOKAWAの新刊「十六歳のモーツァルト」(小倉孝保著)を読み終え、生命の尊さをひしひしと感じています。
 4歳の頃から自分で音符を書いて作曲をはじめた加藤旭は、その驚異的な才能で音楽関係者を驚かせ「モーツァルトの再来」とまで称賛された天才少年です。将来を嘱望されましたが、神奈川県の難関校、栄光学園中学に進学後に脳腫瘍を発症。作り出したおよそ500曲を遺し、2016年にわずか16歳で旅立ちました。

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 本書は加藤旭の家族をはじめ、関わった音楽関係者、学校関係者、友人、医療従事者らを綿密に取材して、生い立ちから旅立ちまでの16年間を追った作品です。こんなにも短い人生で、確かな「生きた証」を遺しただけでなく、多くの人の心をも動かした少年がいたとは。
 加藤旭の余命宣告がなされた後、尽きようとしている命を輝かせようと、奔走する人々の姿が、強く胸に迫って来るのです。
 こんなにも感動的な話なのに、過剰な美化や押しつけがましい表現が一切ない。著者はこれまでに小学館ノンフィクション大賞などを受賞している毎日新聞の論説委員。その文章の巧さは言うまでもなく、新聞記者の模範のようなものです。
 本書に登場する人物はすべて実名で、進学塾や、利用したファミリーレストランのメニューまでが具体名で記されています。それが加藤旭が生きていた時の足跡の一つひとつを慈しむかのように感じられて来ました。
 この秀作をもっと多くの人に読んでもらって良いのではないか。ただその思いで、ご紹介させて頂きました。

2021年6月23日 (水)

立花隆さんから学んだこと

  ジャーナリズムの巨匠、立花隆さんが亡くなりました。私が学生時代に最も愛読していたのは「中核vs革マル」(講談社文庫)。すでに学生運動は下火になっていた時期ですが、高い理想や正義感を持っていたはずの若者たちが、なぜ殺し合いの内ゲバ闘争を展開するようになったのか。これは引きつけられるテーマでした。「正義は暴走する」という普遍的なテーマを考える時にいつも思い出すノンフィクション作品です。

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 とはいえ、ジャーナリスト志望だった学生時代に立花さんの本にのめり込んだわけではありません。ジャーナリストに「現場型」と「分析型」というタイプがあるとすれば、立花さんは典型的な後者。私が憧れていたのは、読売の本田靖春、朝日の本多勝一、共同の斎藤茂男といった現場志向の強い記者でした。
 私が立花さんのすごさに気がついたのは、むしろ自分が現場に取材に出る記者になってからでした。特に事件取材などをするときに感じたのは、どんなに努力しようと、もがこうと「自分の眼で見て、自分の耳で聞ける事実」は極めて限られているという現実に阻まれます。「現場」が最も大切であることは変わりはないけれど、読者に真相を伝えるためには「マクロ的」な視点を持つ必要があるということに気がつきました。
 立花さんの代表作はやはり「田中角栄研究」(1974年)でしょう。当時の田中首相の金脈を追求して、田中内閣を退陣に追い込んだ伝説的なレポートです。膨大なデータを精査し、不動産登記簿まで調べ上げ、ペーパーカンパニーの土地取引の疑惑を浮かび上がられました。これこそ「分析型」ジャーナリストでこそなせる業でしょう。雑誌のみに限らず、新聞においてもその後の調査報道をする上での手法に与えた影響は大きいのではないでしょうか。
 政治、経済、最先端の科学技術…。一つの分野に執着せず、好奇心が向くままに縦横無尽に取材した足跡の多さは驚異的なものだと改めて感じます。その中で、今思い出すのは「臨死体験」をご自身のテーマの一つにされていたということ。蘇生した人々の証言を取材した著書には「まばゆい光、暗いトンネル、亡き人々との再会」があると書かれています。天命を全うした立花さんは、ご自身で体験し、旅立たれたのでしょうか。
 作品の一つひとつを読み返しながら偲びたいと思います。

2021年6月17日 (木)

「近親殺人 そばにいたから」

 ノンフィクション作家・石井光太さんの最新刊「近親殺人 そばにいたから」(新潮社)を読みました。

 実感としてはあまりありませんが、日本の殺人事件の件数は戦後9年目の1954年をピークに減少しつつあります。にも関わらず、家族・親族間での事件の割合は増え続けている。これはいったいなぜなのでしょうか。

 「介護放棄」「引きこもり」「貧困心中」「家族と精神疾患」「老老介護殺人」「虐待殺人」「加害者家族」。石井さんは遺棄致死罪なども含む7つの事件を取材し、その背景を抉り出しています。

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 日本国憲法25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、この生存権を実現するために制度化されているのが、生活保護をはじめとする社会保障です。その上で必要なのが自助努力でしょう。

 しかし「公的扶助+自助努力」があれば、身内に手をかけるような悲劇は100%防げるのでしょうか。否。石井さんは敢えて「殺す側の論理」に視点を向けることで、社会保障や個々の努力だけではいかんともしがたい現実を炙り出しています。これができるのが「ペンの力」。ノンフィクションの醍醐味が味わい、改めて「家族の在り方」について考えさせられる1冊です。

2021年6月14日 (月)

那須川VSHIROYA戦を観て

 格闘技の担当を離れてもう10年以上経ちますが、13日に行われた「RIZIN.28」で、那須川天心とHIROYAの試合を見て、いろいろなことを思い出してしまいました。
 14年前の2007年、当時K―1担当だった私は魔裟斗2世のキャッチフレーズでデビューした15歳の選手を大々的に報じました。それがK―1新世代を代表するHIROYAでした。

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 リングの上で殴り合い、蹴り合うという激しいスポーツをするには似つかわしくないほど「誠実」「真面目」という言葉似合う礼儀正しい少年。自営業を営むお父さんは「勉強をきちんとやらせた上でキックをやらせる」というしっかりした教育方針を持っていました。
 その後、K―1の興行形態も大きく変遷し、選手としてはいろいろ大変なことが多かったと思いますが、まっすぐな気持ちを持ち続けてよく14年も頑張ってきたと思います。好印象を持つファンが多いのもやはり人柄でしょう。
 「RIZIN」の取材はまったくしていませんので、最近の事情はよく分かりませんが、キックの正統派の選手としてHIROYAも本当は言いたいことがいろいろあるのではないかと思っています。愚痴らしいことを口にしないのが彼らしいとことだと思います。「最後はK―1の選手とやりたい」という言葉は、デビュー当時を知る私の耳には魂の叫びのように聞こえました。
 リングを去る日が近づいているとしても、まだ29歳。数々の試合を通じて培った経験は、これからの人生で生きて来るものと確信しています。

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2021年6月 3日 (木)

「海辺の彼女たち」

  ベトナムから来た「技能実習生」の女性たちをテーマにした映画「海辺の彼女たち」(藤元明緒監督)をポレポレ東中野で観て来ました。
 劣悪にして、過酷な職場から脱走した3人のベトナム女性が、ブローカーを頼りに、たどり着いたのは雪深い港町。不法就労で検挙される恐怖に怯えながら漁村で働く彼女たちが働く理由は「親の借金を返し、結婚したい」「妹に自転車を買ってやりたい」と実に健気なものです。
 そんな中で、3人のうちの1人、フォンが倒れてしまいます。病院には行くものの、在留許可証も健康保険証もなく…。
 実話に基づいたフィクションですが、映像は非常にリアルでドキュメンタリーを観ているかのような錯覚に陥ります。それは在日ミャンマー人をテーマに日本の移民問題を描いた藤元監督の前作「僕の帰る場所」でも感じたところですが、今回はさらに切なく、救いのない悲しみがのしかかるようでした。
 それは私たちが生活するこの国で起きている現実を、突き付けられたからに他ならないからでしょう。

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甲斐毅彦

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