「近親殺人 そばにいたから」
ノンフィクション作家・石井光太さんの最新刊「近親殺人 そばにいたから」(新潮社)を読みました。
実感としてはあまりありませんが、日本の殺人事件の件数は戦後9年目の1954年をピークに減少しつつあります。にも関わらず、家族・親族間での事件の割合は増え続けている。これはいったいなぜなのでしょうか。
「介護放棄」「引きこもり」「貧困心中」「家族と精神疾患」「老老介護殺人」「虐待殺人」「加害者家族」。石井さんは遺棄致死罪なども含む7つの事件を取材し、その背景を抉り出しています。
日本国憲法25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めており、この生存権を実現するために制度化されているのが、生活保護をはじめとする社会保障です。その上で必要なのが自助努力でしょう。
しかし「公的扶助+自助努力」があれば、身内に手をかけるような悲劇は100%防げるのでしょうか。否。石井さんは敢えて「殺す側の論理」に視点を向けることで、社会保障や個々の努力だけではいかんともしがたい現実を炙り出しています。これができるのが「ペンの力」。ノンフィクションの醍醐味が味わい、改めて「家族の在り方」について考えさせられる1冊です。
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