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2021年11月

2021年11月28日 (日)

「家族不適応殺」

  2018年6月9日に起きた新幹線無差別殺傷事件の犯人を取材したルポ「家族不適応殺」(インベカヲリ☆著・角川書店)を読み終えました。
 「無期懲役の判決を得て、一生刑務所で暮らしたい」。この願望を叶えるため、当時22歳だった小島一朗は、東海道新幹線の車内で、男女3人をナタで襲撃。止めに入った男性1人を殺害し、女性2人に重軽傷を負わせました。
 そして法定において「希望どおり」の判決が言い渡された時には裁判長の制止を無視して大声で万歳三唱―。
 写真家でもある著者は、拘置所の小島と手紙のやり取りをし、複数に渡って面会。なぜこのような異常な人間になってしまったのかという疑念は、小島の家族への取材を繰り返す中で、少しずつ解けていきます。
 「刑務所に入りたい」「死刑になりたい」。これらの身勝手な願望を叶えるための犯行は、小島が起こした事件の後も繰り返され、今年も8月6日には小田急線内で、10月31日には京王線内で刺傷事件が起きています。何が暴発する彼らを生み出しているのか。まず、その背景を知ることは意義のあることだと思います。

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2021年11月13日 (土)

「狩りの思考法」

探検家・ノンフィクション作家、角幡唯介さんの最新刊「狩りの思考法」(アサヒグループホールディングス)を読み終えました。
 1年間のうち約半分を北極圏グリーンランドのイヌイット集落シオラパルクに「単身赴任」し、犬ぞりで移動しながら狩猟で食料を調達するという行動原理を、角幡さんは計画性のある探検ではなく「漂泊」と表現しています。
 本書は狩猟民イヌイットと同様に「漂泊」を行動原理とすることにより、体感した狩猟民の世界観、思考法を活字化したエッセイです。
 その象徴的な現地の言葉が「ナルホイヤ」。これは「未来はわからないのだから計画にとらわれず、目前の状況に集中しろ」という倫理観らしいのですが、日本語で最も近いニュアンスの言葉は、どうやら「知らんがな」といった半ば投げやりな感じになるようです。
 イヌイットのこの投げやりとも言える態度については、古典的な名作ルポとして知られる本多勝一の「カナダ・エスキモー」の中でも言及されています。約60年前に出版されたこのルポの中では、その根源的な理由までは書かれていないのですが、角幡さんは自らの狩猟体験を通じて、一つの答えを導き出しました。ここが肝となるところでしょう。
 言うまでもなく、人間は他の生命を奪って自らの食料としなければ、命を保てないわけですが、日常的にはそれを意識することはありません。それが農耕以前の狩猟という人間と自然との始原的な営みにまで立ち返ると体で実感することができる。逆に白熊や海象(セイウチ)からみれば、人間が「獲物」という立場に変わるわけです。明日は獲物をとっているかもしれないし、獲物になっているかもしれない。確かなことは「今」だけということです。
 読んで感じたのは禅の真髄と言われる「当処 即今 自己」と通底する価値観なのでないか、ということです。もちろんイヌイットに禅文化があるわけではないでしょうが、人間の営みを始原にまで辿っていくと同じところに帰一していくということなのかもしれません。
 角幡さんは野性の中に生きながらもハイデガーの「存在と時間」や井筒俊彦の「意識と本質」などの難解で抽象的な哲学書を読み込んでいる探検家です。これまで触れて来た哲学に「ナルホイヤ」の精神を照射してみたのではないでしょうか。本書の中では、そこまでは踏み込んでいませんが、気になるところです。
写真の説明はありません。
 
 
 
 
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2021年11月12日 (金)

「ニュースの未来」

 ノンフィクションライター、石戸諭さんの「ニュースの未来」(光文社新書)を読みました。インターネット時代に入って、新聞やテレビなどの伝統メディアは構造の転換を迫られていますが、かといって新興ネットメディアも十分な収益が上がるほど成功しているケースも多くはありません。
 
 「ニュース」に携わる人たちが自信を失いつつある現状を踏まえつつ、本来の「ニュース」の役割とその創造性、可能性について多角的に語った優れた論考だと思いました。
 
 著者は2006年に新聞記者になり、10年でネットメディアの「Buzzfeed Japan」に移籍。2年後にフリーのライターとして独立しています。新聞も、ネットメディアも「限界」を感じての判断ですが、いずれも惰性では身を置きたくなかったのでしょう。
 
 ニュースを語る上で、ノーベル賞作家のガルシア・マルケスを冒頭にもって来る展開は非常に独創的。著者が相当な量のジャーナリズム関連書籍やノンフィクションを読み込んで、自身のライターとしての価値観に落とし込んでいることが伝わる1冊でした。新たな気づきも多かったです。

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甲斐毅彦

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