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2020年9月25日 (金)

「ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯」

 新刊ノンフィクション「ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯」(小倉孝保著、角川書店)を読みました。

 岡本秀樹とは1970年代に中東、アラブ諸国で空手の普及の生涯を捧げた知る人ぞ知る武道家。本書は新聞社のカイロ特派員時代に岡本と知り合い、交流するようになった著者が、当時の国際情勢を交えて型破りな空手家の生涯を綴った評伝です。

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 その破天荒な人物像は、序章で綴られたエピソードで伝わって来ます。当時まだ空手がまったく普及していなかったシリアで、酒に酔った岡本は、恨みの募った日本の外交官が所有していると信じていた日産ブルーバードの窓ガラスを蹴って破壊。駆けつけた警官3人のアゴを回し蹴りで叩き割り、さらに駆けつけた機動隊員たちと大立ち回りを演じます。

 器物損壊、傷害、公務執行妨害。逮捕の末、強制送還になって当然の一件ですが、この乱闘によってシリアで「空手は実戦で使える」という評判が広まり、国家の指導者お墨付きの空手指導者としての地位を確立したというのです。

 出来過ぎというか、2倍にも3倍にも盛られた逸話のようにも思いますが、新聞社で欧州総局長や外信部長を務めた著者が、そんなデタラメを書くわけがなく、読み進めるにつれて、読み手は引き込まれ「この男ならやりかねない」と確信していくでしょう。

 タイトルの「ロレンス」とは、オスマン帝国からのアラブ独立闘争を指導した実在の英国陸軍将校を題材とした映画「アラビアのロレンス」の主人公。岡本はこの映画を観て、中東を目指し、空手を通じて、アラブ民族に自立への誇りと現地の活気をもたらすために力を尽くしていきます。

 その生涯は波乱万丈というひと言で言い表してしまうのが適当とは言えないほど激烈でもあり、人間臭くもあり、こんな人物がいたのか、と唖然としてしまうほどでした。

 やはり思わざるを得ないのは、日本企業の国際的な競争力が失われ、衰退の一途をたどっている今、一昔前にはこんなパワフルな男が存在したのか、ということです。

 「岡本秀樹」の名は、空手関係者以外にはほとんど知られていないかもしれません。こんな男がいたことをもっとたくさんの方が知っても良いのではないか。そんな思いで、この第一級のこのノンフィクション作品をご紹介させて頂きました。

2020年9月22日 (火)

「ゼロから理解するITテクノロジー図鑑」

 インターネットの時代になっても、私は辞書や六法といった書籍は常に机上、もしくは机の近くに備えておく習慣がついています。最近のその中の一冊に加わったのが「ゼロから理解するITテクノロジー図鑑」(プレジデント社、監修・三津田治夫、イラスト・武田侑大、文・岩崎美苗子)。

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 AI、IoTぐらいならだいたい分かりますが、5G、Pythonといった用語は私には説明できません。その都度ネット検索すれば、だいたい済んでしまうのですが、その場しのぎの繰り返しだと、自分の知識としてなかなか蓄積していかないんですね。

 本書では用語100語を厳選。意外と少ないかなという印象ですが、リード文は、読みやすく、イラストは大きくてゆったり。わずか100語とはいえ、100語のイメージがしっかり掴めれば、これを土台にテクノロジー語彙力は増やしていけそう。まずは苦手意識克服を目指します。

2020年9月18日 (金)

「人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ」

 デビュー50周年を迎えた俳優、草刈正雄の「人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ」(朝日新書)を読みました。

 二枚目俳優の草刈正雄といえば、私がちょうど物心ついた頃に観た東宝映画「がんばれ! 若大将」の印象が強烈に残っています。「若い大将と言えば加山雄三だろう」という強い違和感を持ちながら観たにも関わらず、意外にも面白く、加山とは一味違ったコミカルなセンスを備えた俳優なのだな、と思ったものです。

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 本書は、50年間、草刈が俳優として発信して来た台詞がテーマ。タイトルの「ホン」とは台本のことです。

 「がんばれ! 若大将」の台詞は本書に登場しないのですが、「真田太平記」(1985~86年)「真田丸」(2016年)「なつぞら」(2019年)の3作から名台詞を抜粋。魂を込めて発した台詞の一句一句は生きており、そこから自分の原点、家族のすがたなどが見えてきたというのです。

 「いかにして台詞を生きるかは、いかにして自分を生きるかだと|」。なんと味わい深い言葉でしょうか。

 映画やドラマの見方も変わってきそうです。俳優が発する台詞というのは、きっとその俳優の生きざまそのものなのでしょう。
 

2020年9月17日 (木)

「チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学」

 今年の大宅壮一ノンフィクション賞の受賞作「チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学」(小川さやか著、春秋社)を読み終えました。

 香港に棲むタンザニア人ビジネスマンの生活を追った異色のノンフィクションです。交易人、難民を巻きこんだ独自の互助組合、信用システム、シェア経済など、その仕組みは、部外者にとっては複雑怪奇。アフリカの零細商人の商慣習や商実践を研究してきた文化人類学者の著者が、カオスな複合ビル、チョンキンマンション(重慶大厦)のボスを中心に、その実態の解明に挑んでいます。

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 成熟したシステムがあるわけではなく、出入りする人間の多くは個性的で、いいかげん。助け合いや交易も「ついで」によって行われる。必ずしも信頼し合っているわけではないのに、うまく調和している彼らのコミュニティーは、厳格で閉塞感のある日本社会で暮らす私たちにとっては、多くのことを考えさせる要素は含まれていると思います。

 ざっくりいうと、在香港タンザニア人のコミュニティーは「異なる相手と緩やかにつながり、他者の多様性が生み出す偶発的な応答」から生じるものに期待している共同体と言えるようです。これは無意識に考えていたSNSの活用法に似ており、はっとさせられました。

 文章にはユーモアがありながらも、学術色が濃く残る作品でした。フィールドワークが不可欠な文化人類学とノンフィクションやルポルタージュはもともと親和性が高いと思いますが、本書は研究者が挑んだノンフィクションの見事な成功例だと思います。

2020年9月11日 (金)

「世紀の落球 『戦犯』と呼ばれた男たちのその後」

 ノンフィクション作家、澤宮優さんの新刊「世紀の落球 『戦犯』と呼ばれた男たちのその後」(中公新書ラクレ)を読みました。

 プロ野球でも、高校野球でも何年経っても語り継がれるシーンがある。大一番で勝負を決定づけるスーパープレーはもちろんですが、球場全体がため息に包まれる「落球」もその一つです。

 著者の澤宮さんは、人々の記憶に焼き付いてしまった「落球の戦犯」の傷跡に、あえて触れに行きました。責任をとって死をも考えた彼らのデリケートな部分に踏み込むことができたのは、「敗者への愛」が著者の根底にあったからでしょう。

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 第1章は、まだ私たちの記憶に新しい2008年の北京五輪3位決定戦の米国戦でフライを捕球し損ねたG・G・佐藤。

 第2章は高校野球屈指の名勝負として今も語り継がれる1979年の夏の甲子園、箕島対星稜。延長18回にまで及んだ、この大熱戦は故・山際淳司氏が名作短編「八月のカクテル光線」で描くなど、様々な題材となって来ました。名勝負の強力なスパイスとなったのは延長16回裏、内野フライを捕り損ねた星稜・加藤直樹一塁手の転倒でした。

 第3章は1973年8月の阪神・巨人戦です。9回二死、巨人・黒江のハーフライナーを捕球できず転倒した池田純一中堅手。

 3者に共通するのは、大バッシングを受けた後、それぞれが汚名を返上するプレーをしているということです。にも関わらず、人々の記憶には「落球」のシーンが焼き付いてしまうという不条理。これは野球という一つのスポーツを超えて考えさせられるテーマのように思えます。

 本書に限らず、澤宮さんのスポーツノンフィクションに共通する点ですが、光が当たるところだけでなく、陰になっている部分に視線を注いでみることで、初めて見えてくるものがあります。スポーツの世界がもっと豊かであることに気づくことができると思います。

 汚名を背負って、それをバネに生き抜いた彼らのその後は、なんと感動的なことか。スポーツ選手は引退してからの人生が長い。彼らのセカンドキャリアを考えるという点からも多くのことを考えさせられました。

 自分を含めて一度もミスを犯したことがないという人はいません。不本意にも何かをやらかしてしまった人を見た時、そっと差し出してあげたい。そんな1冊です。

2020年8月27日 (木)

「ルポ 技能実習生」

 ジャーナリスト澤田晃宏さんの「ルポ技能実習生」(ちくま新書)を読みました。
 1993年に導入された技能実習制度は、「技能実習」や「研修」の在留資格で日本に在留する外国人が報酬を伴う技能実習、或いは研修を行う制度。ですが、その制度名は名ばかりで、劣悪な労働環境に置かれるケースが非常に多いのです。 

 以前はこの制度の利用者の出身国で最も多かったのが中国だったのですが、現在は「労働力輸出」を国策としているベトナム。澤田さんはベトナム現地も綿密に取材し、その実態を明らかにしています。

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 彼らにとっては平均年収の3倍以上となる100万円ほどの借金を背負ってでも来日してた彼らが目指すのは「300万円貯金する」こと。夢をかなえて故郷に家を建てる人もいれば、悪徳ブローカーの餌食となる人や失踪してしまう人もいます。

 読んでいてうんざりするのは現地の送り出し機関が、日本の監理団体に巨額の賄賂を送るのが当たり前になっているというの極めて不健全な構図。そのツケを背負わされているのが末端の「実習生」になっているという現状です。

 澤田さんは、日本と同様に労働力を外国人に依存している韓国も現地取材。韓国にも様々な課題はあるのですが、ベトナムなどから働きに来る彼らに対する待遇は、韓国のほうが良いということは間違いがないようです。

 日本で暮らしているとなかなか分かりませんが、すでに韓国や台湾との外国人労働者の人材獲得競争に突入しています。日本は外国人労働者を選ぶのではなく、彼らから選ばれる時代になってきていると言えるでしょう。

 この大きな変化にも気がつかず、いまだにアジア諸国から働きに来ている人たちに対して見下すような待遇をすることは、愚の骨頂と言うべきなのかもしれません。

2020年8月20日 (木)

「ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ」

新刊「ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ」(稲穂健市著、楽工社)を読みました。

 主人公は大学工学部に通う女子大生、杉本麻衣。自らロボット研究会を創設し、「お手伝いロボット選手権」で優勝したことから「ロボジョ」と呼ばれる。ロボット搭載用のさらに画期的な技術開発に挑み、成功するのですが、その知的財産を横取りしようとする怪しげな輩が現れ始め…。

 実際の企業間でしばしば起こるパテント・ウォーズ(特許戦争)を題材としたライトミステリーノベル。ところが普通の小説とは違う点は小説でありながらも、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知的財産権の入門書となっているところです。

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 著者で東北大研究推進・支援機構特任准教授の稲穂健市さんは、知的財産権の啓発活動の第一人者として活動している弁理士。ミステリーとして違和感がないストーリーなのに、読めば知財の全体像と現代的な課題点までが分かってしまう。知識の整理用に、巻末には知財コラムが8本ついていて、しっかりメリハリもついています。

 実は変な発明や、おかしな商標に対して密かに興味を持っている私が、稲穂さんを知ったのはちょうど10年前。ペンネーム稲森健太郎名義で出版した「女子大生マイの特許ファイル」を読んだときでした。ビートたけし、ホリモンこと堀江貴文氏ら著名人が実際に出願した特許を題材にした本ですが、難しい話をこれだけ面白く書ける才能に驚き「これこそ知的エンターテインメントだ」と感嘆したものです。

 その後の著作もすべて愛読して来ましたが、最新作には、何としても広く、知財の面白さを伝えたいという工夫に満ちた力作です。

 2002年に当時の小泉純一郎首相が「知財立国」を宣言してまもなく20年になります。経済は失速し、産業の競争力では他のアジア諸国に抜かれつつある今の日本にとって知的財産が大切であることは言うまでもないことでしょう。

 私個人は産業であれ、文化であれ、社会に役立つか役立たないかはさておき、まずは一人ひとりが興味を持ったことをとことん追究し、新しいものを創り出そうとすることが、大切なのではないかと思っています。その前提として、知っておくべきことが、あっという間に楽しく学べるのが、この一冊です。

2020年8月 9日 (日)

「幻のオリンピック 戦争とアスリートの知られざる闘い」

新刊「幻のオリンピック 戦争とアスリートの知られざる闘い」(NHKスペシャル取材班、小学館)を読みました。昨秋放送されたNスぺも素晴らしかったのですが、約50分の番組ではとても収まりきらない秘話に満ちた、読み応え十分の一冊でした。

 1940年(昭和15年)、東京はアジアで初めての五輪開催地となるはずでしたが、すでに日本は中国との泥沼の戦争に突入しており、第2次世界大戦が激化していくという潮流の中で中止となっています。1932年のロサンゼルス五輪、続く36年のベルリン五輪などで活躍した日本代表選手の中で、戦火によって命を奪われたアスリートは取材班の調べによると37人。ある者は志願し、ある者は召集され、スポーツという活躍の場を絶たれた彼らは、戦地で何を思っていたのか。

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 東京での五輪が実現したのは「幻の大会」の24年後。1964年(昭和39年)でした。柔道、レスリング、体操、バレーなどで金メダルを獲得した日本勢の活躍はさることながら、人々の記憶に焼き付いているのは閉会式での「平和の行進」でしょう。国別ではなく、各国の選手が笑顔で入り乱れ、融和しながらフィナーレを迎えた。これは自然発生的に起きたのか、それとも「仕掛け人」がいたのか。本書の圧巻は、取材により、その真相に迫っているところです。

 それにしてもNHKでドキュメンタリー制作に携わる方々の企画力、取材力、構成力には、いつもながら敬服してしまうばかりです。埋もれた事実を掘り起こすノンフィクションの醍醐味が味わえる濃厚な一冊であることを保証します。

2020年8月 4日 (火)

「思考中毒になる!」

 自己啓発書的な書籍を読むことはあまりないのですが、「声に出して読みたい日本語」などのベストセラーで知られる明大教授、齋藤孝さんの新刊「思考中毒になる!」(幻冬舎新書)は、読んでなかなか考えさせられました。

 私自身のことですが、新聞記者になってからは「考えるよりもまず行動」というのが、自分自身の指針となっていました。ですが記者歴も24年になり、50代も目前に迫ってくるとなると、果たしてそれが正しかったのだろうか、と自問することが多くなって来ていたのです。

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 「行動」することは確かに重要ですが、自分の場合に当てはめてみると、熟慮に基づいた「行動」ではないだけに、空回りすることがあまりに多かったのではないか。

 より中身のある「行動」をするためには、まずは「思考」しまくることです。本書の長所は、そのために心がけるべきことが具体的な事例で埋めつくされている点です。

 齋藤さんが説かれていることに、もっと早く気づいて習慣化すべきだった! いやいや、何かを始めるのに遅すぎるなんてことはないはずです。早速今日から心がけたい。自分の頭で「思考」するという習慣を身に着けることは、より主体的に生きるということに他ならないのだと、感じています。

2020年7月29日 (水)

「白嶺の金剛夜叉 山岳写真家 白籏史朗」

 山岳写真の巨匠、白籏史朗の評伝「白嶺の金剛夜叉」(井ノ部康之著、山と渓谷社)を読みました。山梨県大月市で生まれ育ち、日本の山岳写真文化を牽引して、86歳の生涯を閉じるまでを綿密に取材した濃厚な1冊です。

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 私が白籏史朗の山岳写真を初めて目にしたのは、高校1年の夏休みでした。北岳、甲斐駒、仙丈ケ岳に登る南アルプス合宿を終えて、帰京した後に立ち寄った紀伊国屋書店で目に飛び込んできたのが白籏の写真集でした。カラー写真をめくるめく驚いたのは、ついこの間見て来たはずの山々が、自分の肉眼で見るよりも、荘厳な造形美で写し出されているのです。「確かにすごい風景を見て来たが、こんなにもすごかったか」。自分の目がニセモノを見て、写真でホンモノを見せつけられたような奇妙な気持ちになったのを覚えています。

 白籏の写真には、見る者の視覚を強烈に刺激し、この世界を視覚だけではなく五感で感じたいという思いにさせ、実際の山へと引きずり込む強力な引力があると私は思っています。南アルプス、尾瀬、富士山、北アルプス、そして海外の名峰…。数々の名写真が生み出される背景には、何があったのか。すべてが知らないことばかりでした。

 最後まで銀塩フィルムでの撮影にこだわった白籏のイメージは「静」でしたが、波乱万丈の生涯を知った読後のイメージは「躍動」へと変わりました。

 写真だけではなく、山を言葉で表現する詩人でもあった。改めて、白籏が遺した数々の山岳写真を見て、再び自分の足で訪れたいという思いに駆られています。

甲斐毅彦

2020年9月

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