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書籍

2020年11月30日 (月)

「冬の狩人」

 新宿鮫シリーズで知られる直木賞作家、大沢在昌さんの新作警察小説「冬の狩人」(幻冬舎)を読みました。


 料亭で起きた未解決の殺人事件。ミステリーでありながら、本格的なハードボイルドです。大沢さんの作品を読んだのは、「このミステリーがすごい!」でランク入りした数作を読んで以来なので本当に久しぶりでしたが、天才的な引き込む力は健在でした。

 一気読み、間違いなしでしょう。

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2020年11月25日 (水)

「実像 広島の『ばっちゃん』中本忠子の真実」

  読みたいと思いながら読みそびれていた、昨年出版されたノンフィクション「実像 広島の『ばっちゃん』中本忠子の真実」(秋山千佳著、角川書店)を読み終えました。城山三郎賞の候補作にもなった傑作です。
 中本忠子さんは、約40年にわたって非行少年のみならず、その保護者にまで無償で手料理を提供し、物心ともに支えとなって非行や犯罪から立ち直らせてきた保護司。その献身的な活動はマスコミでも取り上げられ、安倍前首相の昭恵夫人とも交流を持つようになった。「マザー・テレサ」とまで呼ばれ、聖人化された中本さんの活動の動機は何だったのか。著者の秋山さんは取材を進めるにつれ、伝えられていたものとは違う実像が浮かび上がってきました。

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 先入観を排して、無心になって取材対象に当たるということは、ジャーナリズムやノンフィクションの世界での基本姿勢ですが、簡単にできることではありません。本書はこれを実践し、まさに「実像」を浮かび上がらせることに成功しています。
 頑なに過去を語りたがらない「ばっちゃん」。しゃべりたくないことを無理やり喋らせることができるのは権力のみで、ノンフィクション作家やジャーナリストはそうはいきません。秋山さんは粘り強く「ばっちゃん」と接し、家族からも話を聞いていきます。最後は「ばっちゃん」が、過去を知られることを受け入れていくわけですが、それができたのは、取材者の熱意と真摯な態度があったからでしょう。
 すぐれた人物ノンフィクションは、書かれた本人にとっても新たな発見があるものです。本書もきっとその1冊なのではないでしょうか。カポーティ―の「冷血」や民芸運動を起こした思想家・柳宗悦の言葉の引用が、作品をより滋味深いものにしています。

2020年11月20日 (金)

「エンド・オブ・ライフ」

「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年ノンフィクション本大賞」の受賞作「エンド・オブ・ライフ」(佐々涼子著、集英社インターナショナル)を読みました。
 著者の佐々涼子さんの本は、3・11で津波に呑み込まれた日本製紙石巻工場が再生するまでを追った「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」(早川書房)を読み、本物のノンフィクション作家であることは知っていましたが、今回の受賞作は圧巻です。

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 テーマは在宅での終末医療。人間の「命の閉じ方」を描いた小説は数多くあるし、その多くは実際の出来事を題材にしているとは思いますが、事実のみで構成された純然たるノンフィクションとなると、やはり読む者に伝わる重みが全く違います。
 主人公となった男性は、京都の訪問診療所で、数百人の終末期患者を看取ってきた看護師。看取りのエキスパートとも言える人物が、すい臓がんになり、余命宣告を受けます。多くの人の終末期を支えて来た人が、患者となり、支えられる側になった時、本人の心はどう揺れ動くのか。そして彼を支える家族は何を思うのか。
 在宅介護を受けていた著者自身の母のことや他の終末期患者のことも織り込みながら進める構成は独特で、ドラマや小説では、描かれることがない現実が伝わってきます。
 6年以上にもわたってこれだけ他者の生死の境目に踏み込んで来れたのは、医療機関や患者たちとの相当の信頼関係が築けたからこそでしょう。大手メディアではなく、一人の書き手だからこそ成し得たことなのかもしれません。
 「死」をテーマにノンフィクションの取材を進める中で、「生病老死」を避けられぬ宿命とする仏教に関心を深めていったという佐々さん。ただ、信仰を深めることまではできないという率直な宗教観にも深く共感しながら読みました。信仰というのは「信じよう」と思ってできるものではないのかもしれません。
 深く心に残るのは、最期を迎えた人が不治の病とどう向き合い、どう立ち向かったか。その姿を通じて、見守る人々の人生にどのような影響を与えたかということ。
 そこに押しつけはありません。人は好きなように、自由に生きていい。そのメッセージは万人の心を揺さぶるものでしょう。ここにノンフィクションが持つ力を実感しました。

2020年11月14日 (土)

「いつの空にも星が出ていた」

 漫画化、ドラマ化された傑作「一瞬の風になれ」で2007年の本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さんの新作「いつの空にも星が出ていた」(講談社)を読みました。

 一つのプロ野球球団を軸に、こんなにも広く、温かく、かつ爽やかに物語を展開できるとは。さすがの筆力は圧巻でした。題材となったベイスターズのファンはもちろんですが、野球に興味がない方が読んでも感動することは請け合いです。

 個人的にはマシンガン打線で日本一になった1998年を思い出させる「パレード」が最も印象に残りました。

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2020年11月11日 (水)

「オンラインでズバリ伝える力」

 ついにオンライン会議向けの自己啓発書まで出る時代になりましたか…。幻冬舎の新刊「オンラインでズバリ伝える力」(佐藤綾子著)は、これからの社会で避けて通れなくなったオンラインでのコミュニケーション技術について説かれた類書のない一冊です。

 「信頼は、画面に映る最初の1秒で決まる」「Zoomでは、0・8倍速で話すと、聞き取りやすい」「名刺交換できないので、肩書を明示する」「顔の表情は歌舞伎役者のつもりで動かす」「大きい声よりも、強弱のある声が心に響く」「1分間のうち32秒、カメラ目線で話すと印象UP」など…。掲載された47のテレワークのコツは、ほとんどが初耳の話です。

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 スポーツの試合後の記者会見なども、今はほとんどがZoom対応となり、私もようやく少し慣れて来たのですが、対面取材に比べれば、どうしても突っ込んだことが聞きにくかったり、不便さを感じているところでした。

 ただコロナ禍の中で広まったオンラインの流れは収束後も変わらないと言われていますし、それならば時代に合ったコミュニケーションスキルを身に着けていくしかないのでしょうね。

 著者は国会議員などのスピーチ指導を行ってきたパフォーマンス心理学の第一人者。一読すれば得るものは大きいと思います。

2020年11月 5日 (木)

「そこにある山 結婚と冒険について」

 探検家・作家の角幡唯介さんの最新刊「そこにある山 結婚と冒険について」(中央公論新社)を読みました。これまでの自身の冒険的探検を振り返りつつ「人はなぜ山に登るのか、なぜ冒険(探検)をするのか」を論理的、哲学的に考察した思索的エッセイです。

 もしこの本が読者にとって初めて手に取る角幡作品であるならば、恐らく抽象論に終始した意味不明の一冊になってしまうでしょう。この本は太陽が昇らない北極を探検した代表作「極夜行」などを読み、その唯一無二の世界を覗き見た上で読んだほうが良い。というか、そうするべきでしょう。「極夜行」を読んだ上でなお「それでもなぜこんなことをするのだろう」と沸き起こる疑問に、答えた作品と言えると思います。

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  「なぜ山に登るのか」。ジョージ・マロリーがエベレスト初登頂を目指した時代から繰り返されるこの問を角幡さん自身も繰り返し受けてきたわけですが「どう答えてもウソくさくなる」と言っています。マロリーが「そこに山(エベレストを指す)があるから」と答えたのは、恐らく投げやりだったはずで、明確になど答えようがないのでしょう。太平洋をヨットで単独横断した堀江謙一さんもやはり同じで「わたりたいから、わたったんですよ、としか言いようがない」と答えているのを覚えています。

 明確な答えがないこの問いかけを主題とした論考は、私が大学山岳部にいた1990年代ぐらいまでは、京大探検部の創設者でもあるジャーナリスト・本多勝一さんによる冒険論がスタンダードでした。未踏峰、前人未到だからこそ、その地に駆り立てられる、という捉え方です。

 ただ、地理上の未踏地帯というのは地球上には、ほとんど残されてなく、あるとしてもグーグルアースでその態様を知り得る時代になってしまいました。それでも探検を求めるならば、「地理上」ではなく、人間が作り上げた「システム」から脱することだというのが、角幡さんの捉え方だと理解しています。

 それならば本多さんの冒険論を刷新する必要があり、この本での考察は、その試みでしょう。ハイデガーや中動態という聞きなれない概念など難解なものを引っ張り出しているのは、探検が「前人未到」という分かりやすいもので語れなくなった以上、必然的であるようにも思います。

 本書は、探検家である角幡さんが「なぜ結婚をしたのか」という「愚問」への答えを探すことが端緒となっています。結論を言えば「結婚とは事態である」と。うーむ、「事態」ですか…。本書を読むと角幡さんの奥様も「何よ、それ」という感じのようですが、これが腑に落ちるようになるのは、私も少し時間がかかりそうです。

 もしかしたら角幡さんは時代を先取りしすぎているのかもしれない。いずれは結婚披露宴などでも「この度は、このような事態となり…」と挨拶するのが通例となる時代が来るような気もします(来ないか)。

 私なりの理解では、自力による厳しい修行に取り組んでいた禅僧がある日、自力ではどうにもならない大きな力によって己が動かされていることを悟る。そんな感覚に少し近いような気も…。角幡さんが切り開く探険思想の世界は、これ自体が「脱システム」なのでしょう。

2020年10月31日 (土)

「私は女になりたい」

 山本周五郎賞など数々の文学賞を受賞している作家・窪美澄さんの新作「私は女になりたい」(講談社)を読みました。


 主人公は47歳の美容皮膚科医の女性。カメラマンの夫と別れ、シングルマザーとなり、仕事に力を注いでいく中で、ふとしたはずみで14歳年下の人と恋に落ちー。「これは最後の恋、なのだろうか」という自分への問いかけが、読後改めて心に突き刺さります。


 主に50代前後の女性を対象としていると思いますが、人生は思い通りにいかない。どこでどんな出逢いが待っているか分からない。描かれているのは、人間にとって普遍的なテーマです。もちろん、男にとっても同じことなのだと思います。

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2020年10月29日 (木)

「稼ぐ人は思い込みを捨てる。」

 新刊のビジネス書「稼ぐ人は思い込みを捨てる。」(坂口孝則著、幻冬舎)を読みました。

 「日本は起業しづらい」「日本人は会社が好き」といった巷で言われている固定観念も立ち止まって一つずつ考えてみれば、必ずしも正しくない。いろんなことに気づかせて頂けました。

 著者は製造業などでコンサルティングを業務を行ってきた調達・購買コンサルタント。現場を踏まえての説だけに説得力があります。

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2020年10月16日 (金)

「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」

 読みそびれていたノンフィクション作品「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」(河合香織著、文藝春秋)をやっと読むことができました。2019年の大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞のダブル受賞作。

 2011年、当時41歳の女性が、函館市の病院で受けた出生前診断で、医師から「異常なし」と伝えられていたが、生まれてきた男児はダウン症だった―。母親は誤診した医師と病院を相手に民事訴訟を起こしますが、提訴したことに対する母親への批判も巻き起こります。母親が提訴した真意は、いったい何だったのか。断片的な報道では、決して伝わらない真相に迫った大変な力作です。

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 障害がある子は産むべきなのか、中絶すべきなのか。それを決められるのはいったい誰なのか。著者は、この「命の選択」という局面に立たされた、母親をはじめ当事者たちを粘り強く取材。誰もが口が重くなるのが当然の題材でしょうが、それを聞き出していくことができたのは、想像を超える取材者の熱意と真摯な姿勢があったからではないでしょうか。

 生命倫理の観点からみても、法の観点からみても、もちろん明確な答えが出るわけではありません。誰かを悪者にして解決する問題でもありません。答えがないからこそ考え続けなくてはいけないテーマなのかもしれません。

 一人のノンフィクションファンとしては、一昔前に比べれば出版ジャーナリズムが苦境に立たされる中で、これだけの重厚なテーマに独力で迫られる書き手が健在であることが嬉しかったです。

2020年9月30日 (水)

「苦しみのない人生はないが、幸せはすぐ隣にある」

 新刊「苦しみのない人生はないが、幸せはすぐ隣にある」(小澤竹俊著、幻冬舎)を読みました。コロナ禍の閉塞感の中で生きる人々に是非一読をお勧めしたい一冊です。

 もし、自分にとって大切な人の最期を看取ることになったら|。考えたくもないことですが、死別という宿命から人間は逃れられません。苦しみの渦中にある大切な人とどう接したら良いのか。本書に綴られているその心構えは、読むだけで胸に迫ってくるものがあります。

 めぐみ在宅クリニック院長である筆者は、これまでに3500人を看取ってきたホスピス医。これまでに出版してきたエッセイ集も好評でしたが、最新刊も生きる勇気を与える珠玉の言葉が満ち溢れています。

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甲斐毅彦

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