ブログ報知

スポーツ報知ブログ一覧

書籍

2020年7月 6日 (月)

「令和の巨人軍」

 「プロ野球死亡遊戯」で知られる現役巨人ファンのライター、中溝康隆さんの新刊「令和の巨人軍」(新潮新書)を読みました。

 昭和のヒーロー、王・長嶋もいなければ、平成のゴジラもいない。地上波中継はなくなって久しく、巨人帽を被った少年を街中で見かけることはめったになくなってしまった。

 それでも、待望の生え抜き4番・岡本和真、不動のエース、菅野智之、史上最高の遊撃手、坂本勇人…。今の巨人にはオーラのある選手、個性豊かな選手がそろっているんです。そうか、彼らは目の前の敵だけではなく、人々の脳裏に焼き付いたノスタルジーとも、きっと戦っているんだな。輝かしい歴史を踏まえつつ、アップデートされた現在の巨人を論じた1冊。こんな巨人論をずっと読みたいものだと思っていたら、まさに、語るにふさわしい中溝さんが出してくださいました。

Photo

 V9時代のプロスポーツと言えば、野球以外には大相撲とボクシングぐらいしかありませんでした(プロレスも入れるべきかもしれませんが)。ところが、今やJリーグが誕生してまもなく30年。プロバスケットボールのBリーグの認知度もだいぶ高まってきました。海外の各スポーツも中継で楽しめる時代です。プロ野球以外にも、楽しめるプロスポーツはいくらでもあります。
 そんな時代だからこそ、敢えて昭和のプロスポーツの代名詞ともいえる「巨人軍」に注目することで、改めて気がつくことはあまりに多い。ファンにとって「今の巨人戦を10倍楽しめる本」と言っても良いでしょう。そしてアンチも、どっちでもない人も、皆が楽しめる新書です。

2020年6月27日 (土)

「国家と移民」

集英社新書の最新刊「国家と移民 外国人労働者と日本の未来」(鳥井一平著)を読みました。

 外国人労働者なしでは成り立たない今の日本社会。昨年4月には入管法が改正され、「特定技能」による受け入れが国策として始まりました。しかし、いまだに「時給300円」などのあり得ぬ待遇で彼らを使い捨てることがまかり通っている日本は、受け入れるだけの成熟した社会になっているのでしょうか。

Photo


 
 

  著者の鳥井一平さんは「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」の代表理事として、長きにわたって外国人労働者たちを支えている人物。私はジャーナリスト安田浩一さんの著書「ルポ 差別と貧困の外国人労働者」(光文社新書)を読んで鳥井さんの存在を知り「こんなすごい人がいたのか」と感銘を受けていたのですが、著書を読んで益々尊敬の念が高まりました。

 目指すのは、労使対等の原則が担保される多民族多文化共生社会。これまで人権侵害に遭ってきた外国人の立場で支援をしてきても、労使双方の立場を「正義」と「悪」では二分できないと鳥井さんは言います。40歳の時には未払いの賃金債権を差し押さえに立ち会った時には経営者からガソリンをかけられ、火を放たれ、全身に大やけどを負うということもありました。

 そこで鳥井さんは「使」側も弱い立場であることに気がつきます。文字通り全身で外国人たちの労働争議に向かい合ってきた体験には並々ならぬ説得力を感じました。

2020年6月20日 (土)

「女帝」

小池百合子東京都知事の評伝「女帝」(石井妙子著、文藝春秋)を読み終えました。評判に違わぬ読み応え。とても面白いのですが、小池さんによって数々の人々が翻弄されてきたことや、現在は都民の生命、生活がこの人に委ねられているという事実を考えれば決して笑うことはできません。

 安っぽい暴露本ではなく、小池さんを生い立ちから非常に深く、丁寧にしらべあげた本格的な人物ノンフィクションです。最大の読みどころはカイロ大学時代に塗り込んだ虚飾。そこに至る経緯とその後の歩みをみれば半端ではない説得力があります。私は政治の取材をしていた2009~2018年の取材メモと照らし合わせながら読み進めました。

Photo

 

 まだ格闘技担当をしていた2007年頃、ボクシングの亀田興毅然の試合を取材に行った時、リングサイド最前列に小池さんがいたをよく覚えています。取りあえず、著名人のコメントを集める役割だったので、談話を取りにいったのですが、なんで環境大臣が亀田の試合を観ているのだろう、という謎は残りました。10年以上前のそんな些細な疑問まで本書を読んで、やっと合点がいきました。

 都知事選の真っただ中で話題になっている小池さんの学歴詐称疑惑は、確かに、さほど重要ではないかもしれません。学歴は政治家の手腕とは全く無関係です。ただ、筆者の石井さんが指摘しているように、この学歴疑惑には小池さんの人としての在り様を考える上で、外せない問題だと思います。それは本書を読めば感じられることでしょう。

 都知事選の前に、有力候補者の素顔を伝えてくれた石井さんには、ノンフィクションファンとしてだけではなく、都民の一人としても感謝をしたいと思います。小池さんの支援を決めている自民・公明党の支持者の方も是非、これを読んで小池さんが都知事にふさわしいかをもう一度考えてみて頂きたいです。

 私は2017年の都議選で都民ファーストの候補者の方々も取材しましたが、多くは誠実な方々で、都民の生活を向上させようという意欲に燃えた方々でした。小池さんはそのリーダーとして本当に相応しいのか。是非、彼女たちも、この本を読んでみるべきだと思います。

2020年6月 1日 (月)

「資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界」

 ジャーナリスト、佐々木実さんの大著「資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界」(講談社)を読み終えました。

 日本で最もノーベル経済学賞に近いと言われた宇沢弘文の評伝。一人の理論経済学者の生涯を辿る638ページのノンフィクションですが、退屈する要素は全くありませんでした。

Photo

 白く長い髭がトレードマークだった宇沢は180センチの長身。幼い頃は怪力で鳴らし、毒ヘビを手づかみして振り回すような豪傑だった。戦時中に過ごした禅寺で曹洞宗の教えの影響を受け、旧制一高時代にはラグビーに熱中。数学が抜群に得意で東大の数学科へ。河上肇の「貧乏物語」を読んだのをきっかけに経済学に転向しました。

 学者としては主に米国で活躍した宇沢は後に、水俣病などの公害や地球温暖化問題、三里塚闘争へと向かい合ったことで知られています。「世界的な理論経済学者がなぜ」というのが私の疑問だったのですが、本書ではマルクス経済学、新古典派経済学、ケインズ経済学に触れていく中で、宇沢が自らの進む道を決めいき「社会的共通資本」という概念を創り出していく過程が見事につづられています。

 市場が急拡大にすることにより非市場とのバランスが崩れ、その歪みから生じたものが公害である。経済分析とは陽が当たらない陰の領域をもカヴァーするものでなくてはならない。これが宇沢が導き出した経済学の使命だったのです。

 この本を読む利点の一つは、近代から現代にかけての経済学史の流れが、すんなりと分かるということ。もう一つは、現在私たちの身が置かれている新自由主義とはいかなる過程で生まれ、どのような毒を含んでいるかも知ることができるという点です。

 私自身、安倍政権が推し進める「アベノミクス」に右脳で疑念を抱いていましたが、本書を読んで左脳で裏付けられたように感じています。

 佐々木実さんは長年政権のブレーンを務めてきた竹中平蔵の実像で迫った「市場と権力」という名著もあり、こちらも早く読んでみたいと思っています。

2020年5月30日 (土)

「百名山紀行ー股関節痛を乗り越えてー」

 山岳部に所属していた都立鷺宮高校時代に古文を教わった関正美先生が「百名山紀行ー股関節痛を越えて―」(1000円税別)を自費出版しました。

 痛みを抱える股関節に人工置換手術を施し、76歳で登った南アルプス最南端の光岳で百名山登頂を達成。その全記録です。

 関先生は高校山岳部の顧問ではありませんでしたが、顧問の先生と親しかったので、我々生徒の山行に数回同行されていました。

Photo

 最もよく覚えているのは1986年7月25日~30日にかけて北岳、甲斐駒、仙丈ケ岳の鳳凰三山を登った南アルプス合宿です。足は短いけどエネルギッシュ。眺望の良いところで休憩する時には短歌を詠み、メモ用紙に書き込んでいたのをよく覚えています。さすがに国語の先生だな、と感心したものです。
 
 著書の中には34年前の懐かしいこの合宿の話も収録されていました。夕食のカレーライスづくりのくだり。「ジャガイモの皮も剥けない生徒もいて…」。なんだ、これは私のことではないか!

Photo_2

 高校3年の時には古典を習い、1学期は古文の大鏡と源氏物語、2学期は漢文の史記でした。その時の教科書は今も大切にとってあります。

Photo_3

 剣道部の顧問だっただけに、声にハリがあり、チャイムが鳴った後も授業を続けていたときに教室の外から「早く終われー」とヤジったダメ同級生を「うるさい!」と一喝。声だけでそいつがよろけたことをよく覚えています。

Photo_4

 

あれから30年以上が経ちますが、お元気で何よりでした。当時を懐かしみつつ、一山ずつじっくり拝読させて頂こうと思います。

 著書ご希望の方はコメントなどでお報せください。

Photo_5

2020年5月24日 (日)

名著「悪役レスラーは笑う」を読み返す

  女子プロレスラー、木村花さん(22)の急死をめぐっていろんなことを考えています。フジテレビの番組出演時の態度がSNSで炎上し、その直後に亡くなったとのこと。

 木村さんのキャラクターは完全な「悪役(ヒール)」ではなかったと思いますが、やはりヒール的要素はあったでしょう。問題になった番組の音声を聴きましたが、確かに、プロレスラーではなく、一般の人が発した言葉ならば不快に感じてしまうのが当たり前の暴言かもしれません。

 私も10年以上前、プロレス担当記者をやっていましたが、「ヒール」たちの素顔は、例外はあるとはいえ、ほとんどが気づかいができる優しい人たちでした。なぜかと言えば、だからこそ「ヒール」を引き受けることができるのです。そしてナイーブな人も多かった。

 例えば、上田馬之助さんはリング上や場外で血まみれになってさんざん暴れても、興行が終わると率先してリングを片づけて、若い衆を自らが運転するトラックに乗せて次の巡業先へ向かったというのは有名な話です。

Photo

 読み返したくなったのは、森達也さんの隠れた名著「悪役レスラーは笑う」(岩波新書)。戦後の米国のプロレス界で「卑劣なジャップ」役に徹したグレート東郷の素顔を追ったノンフィクションです。なぜこの人は憎まれ役を買って出たのだろうか。

 「ヒール」の宿命的な務めである「偽悪」という使命。そこにはいくつもの悲哀ともの悲しさ、人間臭さがあります。それが命をも奪う悲劇にまでつながってしまうようなことは決してあってはならないと思います。

2020年5月 3日 (日)

「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」

 辺境ノンフィクション作家の高野秀行さんが大絶賛していた「一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート」(上原善広著、角川文庫)を読みました。これまで数多くのスポーツノンフィクションを読んできましたが、これほど面白い作品はなかなかありません。

 日本選手にとっては不利な投てき種目の一つ、やり投げで世界のトップ選手たちと渡り合った伝説の選手、溝口和洋。中学時代は将棋部、高校総体にはアフロパーマで出場、試合前にもタバコをふかし、夜は平気でボトル一本開けてしまう、気に入らない記者にはヘッドロックで制裁…。

 ハンマー投げの室伏広治を育てた指導者として名前は聞いたことがありましたが、ここまで破天荒な選手だったとは知りませんでした。マスコミ嫌いで知られる溝口氏を筆者は18年以上かけて粘り強く取材。語らない者を一冊の単行本で一人称で語り通させた。その点においても感動する作品です。

Photo

 すでに引退しているからということもあるのでしょうが、溝口氏の奔放な言動は、組織やライバル選手に気を遣う日本のスポーツ界においては特異とも言えるものです。ライバルの先輩選手を名指しで「嫌いだった」と言って憚らず、日本陸連のことも遠慮なく批判する。それでいて嫌味な印象を感じさせない。これほどまでに精神の自由を持っているスポーツ選手はなかなか思い浮かびません。

 「世の中の常識を徹底的に疑え」が信条とする溝口氏は、トレーニング方法も、投てきのフォームもすべて自分で納得した上で考えだしていった。奔放でありながらも「やり投げ」という種目には命懸けで取り組んでいた。そこがひしひしと伝わってくるので、なじみが薄かったこの種目にまで、心の底から興味が湧き出してきます。

2020年4月30日 (木)

「オリンピック・マネー」

文春新書の新刊「オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側」(後藤逸郎著)を読みました。

 天文学的な数字にまで上がってしまった放送権料、スタジアムなどハコモノを造る巨額建設費、どこまでも膨れ上がる大会経費と国・都市の予算…。「平和の祭典」にはどこまでもカネの話がつきまとってきます。

 本書は週刊エコノミストの元編集次長の著者が、五輪の歴史から遡り、IOCの不透明な経理、放送権料、スポンサー事情など「カネ」の観点から五輪をひもといた好著です。

 最大の読みどころは、神宮外苑再開発の真相に迫った最終章でしょう。東京五輪開催を受けて新国立競技場建設のために再開発が進められたと思われがち
ですが、実は五輪招致が決定する以前からこの地域の再開発へ向けての準備は水面下で進められていた。著者が入手した内部文書の機密情報を使って、その知られざる過程を描き出しています。

Photo

2020年4月 9日 (木)

「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」

 ノンフィクションの新刊「孤塁 双葉郡消防士たちの3・11」(吉田千亜、岩波書店)を読みました。

 原発が爆発し、死の危険が迫る中で、地震・津波の被災者の救助、避難誘導を行い、さらには原発構内での給水や消火にあたった地元の消防士たちのドキュメントです。

Photo

 筆者の吉田千亜さんは、当時の消防士66人を取材。その数々の人名が次々と登場するので、最初は面食らってしまったのですが、それは、ここに書かれていることの真実性を高めるものだということにすぐ気が付きました。2、3人に話を聞いて組み立てたようなものではないのです。

 66人から話を聞いて、整合性が合うように構成していくのは簡単なことではなかったと思います。取材記者という立場からもう一点感じたのは、一人ひとりの年齢と役職をすべてきっちり入れていることの誠実さです。ノンフィクションは具体性を追求してこそ、説得力が生まれるのですが、その点へのプロの取材者としての矜持を感じました。

 原発事故後に報道でクローズアップされ、称賛されたのは爆発した3号機にヘリで水を投下した陸自や東京消防庁のハイパーレスキュー隊でした。私自身も水を投下した自衛官をインタビューするために木更津基地へ行きました。

 ですが、震災発生直後から命がけで活動していた双葉消防本部はほとんど報道されていなかったように思います。吉田さんによれば「双葉消防は何やってんの?」と咎めるように言われた職員もいたそうです。

 消防士一人ひとりが「英雄」として祭り上げられることを望んでいるわけではなく、彼らが自分から語ることはこれまでもなかったと思います。ただ、それぞれの消防士が守るべき家族を抱えながら「特攻」のようなつもりで、任務に当たっていたということは、取材者が掘り起こして世に示さなければ永遠に知られることがなかったかもしれません。

 緊急事態の中で人の命を救うというのは、どういうことなのか。今こそ一人でも多くの方にお勧めしたい素晴らしい作品でした。

2019年12月10日 (火)

聖なるズー

今年の開高健ノンフィクション賞受賞作「聖なるズー」(濱野ちひろ、集英社)を読み終えました。ノンフィクションファンとして、毎年楽しみにしている開高賞は「従来の枠にとらわれない作品」がコンセプトですが、今年の受賞作はとらわれなさすぎ! 驚くべきことは、これが創作ではなく、ノンフィクションであるということ。自分の想像力を遥かに超えた世界が実在することに翻弄された感覚が読後の今も残っています。

Photo

 テーマは犬や馬などをパートナーとする動物性愛者。読み始めるまでに少し躊躇してしまいました。動物との性交を好む人がいるということぐらいは知っていましたが、正直に言ってしまえば、それについて詳しく知りたいという気持ちが起こらなかったからです。

 冒頭は性暴力に苦しんだ著者の濱野さんご自身が体験を振り返るところから始まります。苦痛との闘いのための「鎧」を学術に求めた濱野さんは、京都大学大学院で文化人類学の一分野としてのセクシュアリティの研究する道へ。性をめぐり多角的な考察を重ねる、この研究分野で出合ったのが「動物性愛」というテーマでした。

 濱野さんはドイツの動物性愛擁護団体との接触を試み、「ズー」と呼ばれる動物性愛者たちを長期にわたって取材します。社会からは完全に「アブノーマル」と思われる行為なのになぜ…。寝食をともにしながら徐々に聞き出していった彼らの思いを辿る頃には、濱野さんの筆力に引き込まれていきました。そして、これは性とは何か、愛とは何か、多様性とは何か、人間とは何か、という深い問いかけなのだと気づきました。

 人間は「言葉」という便利な道具を持っていても争いや暴力を防ききることはできません。性暴力もその一つでしょう。人間同士の間にのみある「言葉による合意」というのは真実なのだろうか。私には濱野さんは書いた以下の部分が最も心に残りました。

 「言葉での合意さえあれば性暴力ではないと、いったいなぜ言えるのだろうか。言葉を使う私たちは、言葉を重視すればするほどきっと罠にはまる。言葉は、身体からも精神からも離れたところにあるものだ。それは便利な道具だが、私たち自身のすべての瞬間を表現しきれない。言葉が織りなす粗い編み目から抜け落ちるものは、あまりにも多い」
 
 ノンフィクションのテーマは無限にあると思いますが、読み継がれる価値があるものを求めるならば、本作のような学術的な研究分野というのは題材の宝庫なのではないか、ということも考えさせられました。私の場合は「多様性」という言葉は知っているつもりでも、真の意味で理解していたのか、という問いを突き付けられたような気持ちです。

 題材を聞いただけでおぞましく思われる方も多いでしょう。しかし読んだ上でなくては決して議論はできないノンフィクション作品だと思います。

甲斐毅彦

2020年7月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

最近のトラックバック

見出し、記事、写真の無断転載を禁じます。Copyright © The Hochi Shimbun.