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2008年7月15日 (火)

「崖の上のポニョ」を見て(中)

 先のマスコミ最初の試写後、もう一度、ポニョを見ました。これが不思議なんですね。作品の印象が違った色を帯びるのです。最初に見た時、「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」に比べ、ずいぶんシンプルになったと思いました。でも2度見てみると単にシンプルでは済まない。

 新作を封切りまでに2度も見ることは、ほとんどありません。悲しいかなそんな時間も余裕もないのが実際のところです。ただ、以前ジブリの取材を担当していた時は、「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」も4、5回見ていました。この時から毎回違った所を発見し、印象が変わる、ことが起きていました。

 今回はせめて2回くらいは見て、宮崎駿監督が映画に昇華させるまでの約4年間の「思索の旅」に近づいてみたい思いがありました。

 「―ポニョ」には子供たちの感性だからこそ、ストレートにびんびん響くシーンもたくさんあるでしょう。最初は考えるより、どれだけ感じられるか。右脳勝負の映画かな、とも思いましたが、単にそれだけではないようです。セリフの細部に注意していると、とてつもなく壮大な世界を描きながら、それを押しつけることをせず、ある警鐘を鳴らしていると受け取りました。

 アニメの技術的なことはよく分かりません。でも海面を海中から見た角度で描き、自然光の刺す水中を表現するのは非常に難しいでしょう。そんな自然光、深海から静かに物語は始まります。

 今回、監督が一番最初に公開したポニョのデビュー姿は、緑のバケツに入った状態だったと記憶しています。正直、これを見た時、構図にギョッとなりました。上目使いで、こわいくらいに、こちらをじっと見つめているからです。

 後に、ポニョが自分を救ってくれた男の子、宗介を見ている構図だと分かるのですが、作品を見る前から、私たちは間接的に宗介になっていたわけです。

 金魚のような形をしたポニョは憧れの「人間界」にたどり着いた時、アクシデントで上半身がガラス瓶に詰まり、窒息寸前の状態で宗介に助けられます。穏やかで神聖な海から、世界は一転します。監督は何気ないこのシーンに大きな意味を持たせているのでしょう。

 監督はプレスリリースに、興味深いこんな一文を記しています。

「少年と少女、愛と責任、海と生命、これ等初源に属するものをためらわずに描いて、神経症と不安の時代に立ち向かおうというものである」

 ポニョはいきなり人間が無造作に捨てたのであろう、ゴミに閉じこめられてしまう不運に見舞われるのです。身動きが取れず、気絶した状態のポニョの姿はそのまま、住みにくくなったいまの世で生きる私たちを意味しているように見えます。

 映画でポニョの父フジモトが、人間界の汚らわしさについて語るとき、思わず耳が痛くなり、後ろめたさが募ります。辛らつですが、的を射ているからです。 物語では嵐が起こり、波が荒れ、海面は上昇し、崖にいるはずの宗介の自宅まで床下浸水になります。いつも生活する地上は海底に沈み、そこを古代魚など水中の生物が悠然と泳いでいます。

 荒唐無けいな展開に映るかもしれませんが、監督の中ではしっかりつながっているはずです。

 劇中、ポニョの母グランマンマーレが話す「(古代)デボン紀のような美しい海」というセリフがあります。それ以上の説明はされていませんが、ここにも深い意味があるでしょう。

 地球は46億年の歴史があるといわれます。この歴史を1年カレンダーにすれば、いかに人類の歴史が浅いのかが分かります。デボン紀は3、4億年前とされていますから、カレンダー地球史では11月下旬から12月初旬。人類の始まりに至っては大晦日に過ぎない。人間はちっぽけな「新参者」なわけです。

 荒れ狂う波や、町の水没を見ていると地球が暴れているようにも見えます。まるで、いまの地球の温暖化の異常気象を見るようです。生物の始まり、人類以前の「先輩」のようなポニョと宗介を軸にする背景で、監督は地球の「新参者」である人間の犯してきた過ちについても描こうとしたのではないか。これが正解なのかどうかは分かりませんが、そんな風に勝手に考えが、どんどん膨らんでいくのです。(下)では登場人物を中心に、監督の観察眼の鋭さについて触れようかな、と思います。

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コメント

「神経症と不安の時代」、まさしく!ほんとうに。
あたしの地域ではこの土曜日から観られます。
考え、考えるには、最適な映画のようですね。
もともとアニメは苦手、でも、この映画はコマーシャルを見たとき、なんだか「ぞくっ」としたの。
楽しみです。

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