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2008年12月 2日 (火)

映画界の常識と非常識(下)

 公開5週目も人気ランキング1位をキープと好調な三国志大作「レッドクリフ PartI」。動員は300万人を越え、興行収入も37億円に達したそうです。

 “下馬評”を上回る数字。「絶賛上映中」がお決まりの映画業界にあって「おきて破り」ともいえるCMコピー「まさかの大ヒット!」を考えた陰のキーマンの1人は、宣伝プロデューサーの木村徳永(とくなが)さん(42)という人でした。

 この驚きのコピーには当然、猛反対する関係者も出たと聞きます。

 そんな行き詰まった状態にあっても、木村さんは「どの程度の反対でしょうか。絶対にやめて欲しいのか、できればやめて欲しいのか」と問いかけ、苦しい状況下で光を見つけ出そうとしました。

 お会いするまで、気むずかしくて、神経ピリッピリの人だったらどうしよう~と少し緊張しましたが、温厚で優しい目をした方でした。

 穏やかな中にもエネルギーを内に秘めた人、という印象を受けました。

 長くヒットする作品は、決まってある時期を境に「映画が自分で動き始める」といいます。

 私自身、ずっとそう信じてきました。

 宣伝に携わる人々はその「動き出す」瞬間を生み出し、その瞬間に立ち会いたいがために、神経をすり減らしての宣伝も苦にならないのではないか、と思ってきました。

 木村さんは言います。「作品がひとりでに動き出すなんてことはないんですよ」。

 静かながら、それは信念を感じさせるような口調でした。

 映画会社ギャガの出身でもある木村さんは、麻布十番に有限会社「キコリ」という、かわらしいネーミングの事務所を立ち上げ、いまそこを拠点に活動しています。

 その事務所には、まだお目見えしていないこの映画の新しいバージョンのポスターも張られていました。

 パート2では「興収100億円を目指したいと思います」と返ってきました。

 攻める姿勢は崩さないようです。

 「レッドクリフ」は、音楽では実績はあっても映画参入はまだ年数の浅いエイベックスが製作に加わっています。

 宣伝を大展開させる際、主導権を握るのは「ベテラン宣伝マンの直感」であることが多いものです。

 個人的な印象として本格参入しようとする新参者に、映画界は少し冷ややかな一面があるのも、また事実でしょう。

 今回、宣伝企画書は150ページにも及びました。そこには「新しい者たちの直感」が生かされています。

 「レッドクリフ」の観客層が広がった理由は、まったく三国志を知らない人にもとても分かりやすく作られていることでしょう。

 その神経の配り方が半端でないのです。

 日本語字幕の書体ひとつ取ってみても、洋画でよく見られる、かすれたような細い文字が使われることが多いのですが、今回は珍しい丸味のあるゴシック体です。

 太字で視認性にもすぐれ、これで読み取る早さもアップします。

 日本版には登場人物の系図、対立関係など図解での「前説」が付けられました。

 歴史な苦手な人も安心して見ることができます。

 よくありがちな、激しい戦いのシーンで始まっていたら、何が何だかさっぱりという人が続出したかもしれません。

 難しい漢字が多いので当然、登場人物には、ふりがなが打ってあります。

 客が慣れてきたら、そのふりがなは消えますが、しばらくすると、ふりがなが復活します。記憶力が心配な人には助かります。

 このふりがなをどこで一度外し、どこで再び出すか、思案に思案を重ねました。

 気の遠くなるような地味な作業があったのです。

 木村さんを支えたのは、昨今の「偽」にあふれた寂しい世の中で、作品に脈々と流れる「信じること」でした。

 「いまの時代は信じることが劣化していると思います。国や時代が違っても、勇気を持ってどこまで人を信じられるか、どこまで信じる心が残っているか…」。

 動員、興収という数字もさることながら、これを一番お客さんに伝えたかった、というのです。

 恥ずかしながら私は、宣伝の仕事は完成した作品に対し、ひたすら受け身でなければならない、と思い込んでいました。

 今回初めて、宣伝の人々の手によって作品の質を高めることもできる、映画宣伝の無限の可能性みたいなものを、遅ればせながら学ばせてもらったのでした。

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