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2009年1月15日 (木)

映画「クライマーズ・ハイ」のリアリティーについて

 映画の感想を語るとき、リアリティーが「あった」とか「なかった」とか言います。
15日に発表されたブルーリボン賞で作品賞を取ったのは「クライマーズ・ハイ」(原田眞人監督)でした。

 横山秀夫さんが新聞社時代に体験した日航機墜落事故取材をもとに、地方新聞社がこの大惨事をどれほどの葛藤を抱え、どう報道しようとしたかを描いた小説の映画版です。

報知映画賞では全権デスクを演じた堤真一が主演男優賞を、社会部記者役の堺雅人が助演男優賞を受賞しています。

 一晩で原作を読み終えたときもそうでしたが、7月の公開前に試写を見た時も胃痛に襲われるほどのめり込んで見てしまい、見終わるころにはエネルギーを消耗し、ぐったりとなっていました。

同業者である新聞記者たちをうならせたのは、ほかでもなくその「リアリティー」でした。

つい先日「クライマーズ・ハイ」のメーキングDVDを見ました。
未公開映像も入っているメーキングも、本編に負けず劣らず、見応えがありました。

 映画で特に目を見張ったのは、編集局内の緊迫感でした。
最初は実際の新聞社を使って本当の社員を使ってやっているのかな?と思いながら見ていましたが、実は借りたビルを使い、すべてがセットでした。

原田監督はセリフが一言もない人物もエキストラを拒み、全員プロの俳優を使いました。

奥の隅っこに小さく映っている人も、映っても映らなくても、みんなに編集局内の役割と役名、キャラクターを与えました。

クライマーズ・ハイは登山用語で、興奮状態が極限にまで達して、恐怖感がマヒしてしまう状態を意味します。

取材現場もさることながら、絶えず締め切りとの戦いが強いられる編集局。
追い込みの時間帯は殺気立ち、さながら戦場と化します。

撮影ではリハーサルで何度も何度も雰囲気をシミュレーションし、
各自が本職の人に取材し、役を知ろうとし、とことん考える中で、本物に近づいていきました。

「一体、何台のカメラで撮ったの?」という映像がたくさん出てきます。
本番ではカメラ2つを使い、6回ずつ同じシーンを異なる角度から追っていたことを知りました。

 新聞は徹底した分業で作られます。限られた時間内で、それぞれ専門の能力が結集し、ようやく紙面は完成をみます。
しかし、分業であっても伝えたい思いという点ではつながっているはずです。

映画でそれがよく分かるのが、事件が起きた瞬間です。
編集局内の「気」が一変します。

本物の新聞社にしか存在しえない、と思っていたこの至難の「空気」を、
スクリーンに再現させたことが、映画の成功につながったのです。

主要な出演者の芝居でも監督は思い切った演出をしていました。
セリフを言い間違ったり、つっかえたりしたら、撮り直すのが普通です。
原田監督は、劇中の登場人物の心理状態が極限状態だけに、その時の役者の内面を重視。
多少、言葉に詰まるようなことがあっても迷わずオッケーを出していました。
その方がリアリティーがあると判断したのです。

いい映画に出会う度、不思議な感覚にとらわれます。
場内が暗転し、何も写し出されていないスクリーン。
見終わって、場内が明るくなり、再び何も映っていないスクリーンを見ます。

今までのめり込んでいた無数の空間が、すべてこの薄い大きな1枚の平らな面から生み出されたことのすごさに改めて気づきます。
映画のすばらしさを再確認する時でもあります。

さて今年は何本ぐらい、文句なくリアリティーのある映画に出合えるでしょうか…。

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コメント

映画の感想もさることながら
普段はのほほんと
柔らかな空気をかもし出しているウチノ姉さんが
その、殺気立つ空間に身をおかれていることが
なんだか不思議です。

その中で、事実を、
そして感じていることを表現していく仕事なんて
感情に左右されたまま放言して生きている私には
それもひとつの“不思議”です。

実はまだ見ていないこの映画・・・
早速、DVDでになりますが、拝見しようと思います!

この作品は、2回も見に行ってしまいました。
撮影風景の説明を読んで、納得したところ。

>映画でそれがよく分かるのが、事件が起きた瞬間です。
編集局内の「気」が一変します。

>本物の新聞社にしか存在しえない、と思っていたこの至難の「空気」を、スクリーンに再現させたことが、映画の成功につながったのです

こういうとき、独特の「雰囲気」がするのは、わたしにも少しはわかりますよ。

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