金環日食で
5月21日に見られる金環日食を控え、日本はほとんどお祭り騒ぎだ。
「金環日食」と聞くたび、「金環蝕」(山本薩夫監督、1975年)という映画を思い出す。5、6年ほど前に社会派の巨匠として知られる山本薩夫作品を続けて見る機会があったが、印象深い一作として残っている。九頭竜ダム建設の工事をめぐる汚職事件をモデルに描いたもので1966年に石川達三が発表した小説が原作だ。
仲代達矢(官房長官)、京マチ子(首相夫人)、三國連太郎(代議士)、宇野重吉(金融王)など大物が顔を並べ、演技もストーリーも見応えがあった。しかし、どうしてタイトルが「金環蝕」なのか。冒頭にこう出てくる。「外側は金色の栄光に輝いて見えるが、中の方は真っ黒に腐っている」。天体の現象を政界とダブらせたのだった。
話は金環日食から、さらに脱線するが、小学校に入って間もないころ、親に強制的に定期購読させられていた雑誌にプラスチックの黒い下敷きを小さく切ったものが付いていた。これを目に当てて見れば太陽が見えるという、子供的にはサプライズの品だ。確かに使って見た記憶がある。あれほどまぶしく光を放っているおひさまなのに、それを使って見たら線香花火が最後に落とすオレンジ色の火の玉のようだった。感動より少し拍子抜けした記憶も残っている。
太陽を見たうれしさよりも、その注意書に描かれていた絵の方が強烈だった。
「危険!絶対に直接、太陽を見てはいけません」のそばに描かれていたのが、焼けた目から煙が出てもがき苦しんでいる男の子のショッキングなイラストだった。子供には刺激が強すぎた。だからいま連日、日食を見る道具が紹介されているが、そのたびにそのときの恐怖のイラストの記憶までもが思い起こされるのだ。
個人的に天体に関心が薄く、夢もロマンもあまり感じないが今後、話題が出たときに「わたしも一応見たよ」と答えるためにも、21日の金環日食は少し義務的に見ておこうかな、と思っている。
コメント